【Law Practice 民事訴訟法】基本問題1:訴訟と非訟

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1 Aは最高裁判所に対して、夫婦同居の審判(以下「本件審判」という)について、特別抗告(民事訴訟法336条)の申立てをしているが、これに対して最高裁判所がいかなる判断をするかを検討する。 

2 そもそも、本件特別抗告は適法に申し立てられたものといえるか。 

(1) Aは本件審判について、高等裁判所に即時抗告をしたが、それが高等裁判所によって棄却されているため、本件抗告は「高等裁判所の決定及び命令」(民事訴訟法336条1項)に当たる。 

(2) Aは本件審判が公開の法廷で行われなかったことが憲法32条、82条に違反することを主張しているため、「憲法の違反があることを理由とするとき」(民事訴訟法336条1項)に当たる。 

(3) よって、本件特別抗告は適法に申し立てられたものといえる。 

3 本件特別抗告は、本件審判が公開の法廷で行われなかったことが憲法32条、82条に違反すると認められる場合に認容される。そのため、憲法32条、82条の違反が認められるかを検討する。 

(1) 本件審判は、夫婦の同居に関する紛争が非訟事件に該当することを前提としたものである。そして、非訟事件においては、後述する性質上、憲法82条の適用範囲外であり、非公開での手続が原則(非訟事件手続法30条)となっている。

そして、同一法典の中で用いられる文言が、異なる意義で用いられることは、一般の国民に対して法理解の混乱を生じさせるため、妥当ではない2といえるため、憲法32条が定める「裁判」は、憲法82条の「裁判」と同義であると考える。それならば、憲法32条は訴訟事件において、公開の法廷で対審・判決を受ける権利を保障した規定と考えられる。すなわち、非訟事件においては、憲法32条の適用範囲外にあるといえる。

そのため、この紛争が非訟事件に当たるのであれば、憲法82条、32条の公開の原則に反するとはいいがたい。

しかし、夫婦同居審判は、夫婦が一定の住居で共に暮らすという作為義務の有無が問題となる点で訴訟事件に該当するのではないか。 

ア 訴訟事件とは、実体法上の権利義務関係の存否を終局的に確定する裁判をいい、非訟事件とは、手続の簡易迅速性や秘密保護の必要性にかんがみて裁判所が後見的立場から私人間の生活関係を具体的に調整する裁判をいう。 

イ(ア) 確かに、夫婦同居審判の対象は、夫婦が一定の住居で共に暮らすという作為義務の有無を問題としている点で実体法上の権利義務関係の存否を終局的に確定するものともいえる(民法752条参照)。 

(イ) しかし、夫婦同居審判の本質は、同居の時期や場所、態様等の生活関係の具体的な要素について決定することにある。そのような決定を行う以上は、家庭内のプライバシー保護のため、各々の事情に関する秘密を保護する必要性が認められるし、具体的な家庭の事情を考慮に入れた上で裁判所が後見的立場から判断を下すことが求められるため、夫婦同居審判は訴訟事件ではなく、非訟事件に該当すると考えるべきである。 

(2) 夫婦同居審判が非訟事件に該当する以上、非公開で手続を行うことが原則となるため、前述のとおり、憲法82条、32条の公開の原則には反しないと考えられる。 

(3) そうだとしても、夫婦同居審判は、夫婦が一定の住居で共に暮らすという夫婦同居義務という訴訟事件で争われるべき義務の存在を前提とした上で、その具体的内容について形成するものといえ、審判にかかる判断に訴訟事件の要素を内包している

それならば、憲法82条、32条の適用が及ぶべき争訟といえ、裁判手続のうち全ての過程が非公開となっていることは、憲法82条、32条の公開の原則に反するのではないか。 

ア  確かに、純然たる訴訟事件の要素を審判の内容に含む以上は、公開で裁判を行う必要性も否定できない。 

 しかし、夫婦同居審判の判断内容につき「確定判決と同一の効力」が生じる(家事審判手続法287,39,75条)のは、あくまでも非訟事件としての判断が下された範囲のみであり、純然たる訴訟事件としての性質を有する範囲に対してはその効力は生じないと考えられる。 

 それならば、純然たる訴訟事件としての性質を有する範囲については、別途訴訟事件で争うことが否定されるわけではないため、公開の裁判で争う途が閉ざされているとはいえず、憲法82条、32条の公開の原則に反しない。 

イ よって、裁判手続の全ての過程が非公開となっているとしても、憲法82条、32条に反するとはいえない

4 以上より、本件審判が公開の法廷で行われなかったことが憲法82条、32条に違反するとは認められないため、最高裁判所は本件特別抗告を棄却すると考えられる。 

Footnotes

  1. あえて判例の結論に理由をつけるとすればこのような感じなのかな、と考えてこの理由づけを付与しています。異論は多々あると思いますし、現実問題として同一法典内で別意に解釈される文言がある、という指摘はそのとおりだと思います。
  2. あえて判例の結論に理由をつけるとすればこのような感じなのかな、と考えてこの理由づけを付与しています。異論は多々あると思いますし、現実問題として同一法典内で別意に解釈される文言がある、という指摘はそのとおりだと思います。

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