1 Yは「債務名義……に係る請求権の存否又は内容について異議」があるとして請求異議の訴えを提起している(民事執行法35条1項)1。
その理由として、Yが次のような主張をすることが想定される。
すなわち、XA間の訴訟において、XのAに対する売買代金支払請求権の存在が認められたところ、そもそも被告たるAは訴状送達時には死亡しており、訴訟係属が観念できず二当事者対立の原則に反するため、訴訟要件が欠缺しており、訴え却下判決がなされるべきであったのに、それを看過して本案判決がなされたため、債務名義たる確定判決(民事執行法22条1号)が無効である、という主張である。
2 XA間の訴訟において、Aが当事者であるのであれば、Yの上記主張は正当と思える。
しかし、Yの訴訟代理人たるB弁護士がXA間の訴訟に出頭しており、訴訟の当事者としての行動をしている。そこで、XA間の訴訟において誰が被告なのか、という点につき検討すべきである。そのため、いかなる基準によって当事者を確定すべきかが問題となる。
(1) 当事者という地位は人的裁判籍(民事訴訟法4条)の判定基準となるため、訴訟の提起後速やかに、かつ、画一的な指標によって定められるべきである。そして、訴訟の提起直後の段階においては、最も明確な指標として、訴状の記載が存在している。そこで、訴状の記載を判断の基準とすべきである。
もっとも、具体的妥当性を図る必要から、訴状の当事者欄の記載(民事訴訟法133条2項1号)だけではなく、請求の趣旨や原因(民事訴訟法133条2項2号)を含む訴状の記載全体を客観的合理的に解釈して当事者を確定すべきと考える。
(2) XA間の訴訟においては、訴状の当事者欄に被告としてAが記載されている。また、請求の趣旨及び原因においても被告側の当事者としてはAのみが表示されており、ここから相続人たるYを当事者に含めることは想定されない。そのため、XA間の訴訟における被告はAである。
(3) よって、Yの上記主張は正当と思える。
3(1) しかし、XA間の訴訟において、YはAの同居人としてXA間の訴訟に関する訴状を受領し、また、訴訟代理人たるB弁護士を出頭させるなどして、その訴訟手続に関与している。
そして、その関与は第1審を起点としており、その時点から判決確定までの期間は、自身の法的主張をする期間的猶予としては十分である。Yは訴訟手続に十分に関与できたにもかかわらず、B弁護士が特段の主張・立証をしなかったがために、X勝訴の判決が特段の支障なく下されたものと評価できる。
それならば、YはXA間の訴訟において手続的に十分に関与していた、又は、少なくとも手続的に十分に関与できたものといえ、Yに関して、手続保障が充足されており、YはXA間の訴訟結果についての自己責任を負うべき地位にある。
(2) Yがそのような地位にあるにもかかわらず、控訴期間(民事訴訟法285条)が経過し、判決が確定した後に、Aが死亡していたため被告として訴訟係属が観念できる状態になかったことを理由として、確定判決の効力(民事執行法22条1号、民事訴訟法114条等)を否定することは、自身の地位と矛盾した主張をすることにほかならず、信義則(民事訴訟法2条)に反する。
4 以上より、Yが上記事情を理由に債務名義たる確定判決の無効を主張することは信義則に反し許されないため、Yが提起した請求異議の訴えは認められない。
1 仮にYの信義則違反の事情がなかったとしても、民事執行法35条2項で「確定判決についての異議の事由は、口頭弁論終結後に生じたものに限る」と規定されている点をクリアする必要があるように思われます。この点については、Aの死亡が明らかとなったことが「口頭弁論終結後に生じた」として処理することになるのでしょうか。Yがその旨を「口頭弁論終結」前に主張できたのに主張しなかったのであれば(信義則違反の事情がない場合にこのようなケースがあるかは疑問ですが)、そのことを理由として請求異議の訴えを認めないのが事案の処理として妥当なのでしょうか。考えれば考えるほどよくわからない問題のように思えます。
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