【Law Practice 民事訴訟法】基本問題5:当事者能力

Law Practice 民事訴訟法
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1 XはXY間で交わされた協約書に基づき、計算関係書類等の謄本の交付を請求している。これに対して、YはXには当事者能力が認められないため、訴訟要件が欠缺しており、訴え却下判決がなされるべきと主張している。そこで、Xに当事者能力が認められるかを検討する。

2 当事者能力とは、民事訴訟の当事者として本案判決の名宛人となることのできる資格をいう。そして、当事者能力の有無は、実体法上権利能力を有しているか否かを基準として判断される(民事訴訟法28条)。民法においては、権利能力の主体として、自然人(民法3条)、法人(民法34条)が定められている。しかし、Xは法人格を有しない社団にすぎず、権利能力は認められず、当事者能力も認められないのが原則である。

3 そうだとしても、Xは「社団」(民事訴訟法29条)として、当事者能力が認められないか法人格なき社団について「社団」(29条)に当たるとして当事者能力を認めるための要件が条文の記載から明らかではなく、問題となる。

(1) 法人格なき社団について「社団」(29条)に当たるとして当事者能力を認めるためには、①団体としての組織を備えていること②多数決の原理が機能していること③構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続すること④その組織において、代表の方法、総会の運営、財産の管理など、団体としての主要な点が確定していることが必要と考えられる。

そして、財産の管理状態について、固定資産や基本的財産を有していなかったとしても、団体として内部的に運営され、対外的に活動するために必要な収入を得るための仕組みが確保され、その仕組みを管理するための体制が備わっているなど、財産を管理する主体としての地位を認めるにふさわしい事情がある場合には、上記④の要件がみたされると考える。

(2)ア Xは本件ゴルフ場の会員によって組織されるクラブであり、団体規則も定められているため、団体としての組織を備えているといえる。

イ 上記②③については、本問の事情からはその要件をみたすかが判断できない。

ウ(ア) 確かに、Xは固定資産を有していないこと、独立して存立基盤となりうるX固有の財産を有していないこと、団体規則の中に財産を管理する方法についての具体的規定がないこと、にかんがみると、財産管理について主要な点が確定しているとはいえない。

(イ) Y社が運営するゴルフ場は、会員により預託された金銭を元手として建設、事業運営されている。会員が預託金をY社に差し出すことで、会員にはゴルフ場の優先的利用権と、償還期限が経過することを条件とする停止条件付預託金償還請求権が発生すると考えられる。

そして、XはY社が運営するゴルフ場の会員によって組織された団体であり、その団体の構成員の預託金償還請求権を保護するため、Y社との間で一定の要件をみたす場合にY社の経理内容を調査することができる旨の合意を本件協約書において行ったものである。

これらの点にかんがみると、Xは内部的運営を経た上で、Y社との間で、協定書という形ではあるものの、Xの構成員たる会員の預託金償還請求権を保護するための仕組みを確保していると捉えることができる。そして、その協約書に基づき、Xが代表者によってY社の計算書類等の謄本の交付を請求していることから、その仕組みを管理するための体制が整っていたものといえる。

さらに、Y社は会員に対して預託金の返還の猶予を求めており、会員の預託金償還請求権が履行されない可能性が高い状態にあり、Xの会員の財産保護のため、Xに財産的な管理主体として紛争主体たる地位を認める必要性が大きい

よって、財産を管理する主体としての地位を認めるにふさわしい事情があるといえるため、団体としての主要な点が確定しているといえる

エ したがって、上記②③の要件がみたされる場合には、Xは「社団」として、当事者能力が認められる

4(1) 「社団」として、当事者能力が認められるとしても、権利能力を有しない以上、財産的権利の主体とはなり得ず、当事者適格が認められないのではないかという点が問題となるが、この点については、「社団」として当事者適格が認められる場合にはその事件限りにおいて権利能力が付与され、権利義務主体となるため、当事者適格が認められると考える。

(2) 本問においても、Xは権利義務主体として、当事者適格が認められる。

5 以上より、Xに当事者能力、当事者適格が認められるため、裁判所は訴え却下判決をするのではなく、本案判決をすべきである

 


【任意的訴訟担当として構成する見解から】

(*難しい問題であり、すごく書きづらかったです。この記述が論理的整合性を保っているかは非常に怪しいです。あまり参考にしないでください。)

4 Xは上記のとおり、「社団」として、当事者能力が認められる。そうだとしても、Xは法人格を有しないため、実体法上権利能力を有しない以上、財産的権利の主体とはなり得ず、当事者適格が認められないのではないか当事者適格を認めるための法的構成が問題となる。

(1)ア(ア) 法人格なき社団が紛争において主張する財産的権利は、団体構成員に総有的に帰属するものであり、本来はその団体の構成員全員が当事者とならない限り当事者適格が認められない(固有必要的共同訴訟、民事訴訟法40条)。

しかし、そのような運用を貫徹すると、訴訟追行における当事者の負担が増大し、また、訴訟手続が複雑なものとなるという不利益が生じることから、民事訴訟法29条は法人格なき社団に対して当事者能力が認められる余地を示した規定と解釈できる。

(イ) 法人格なき社団を当事者とした財産的権利に関する紛争が認容されたとしても、法人格がない以上は権利義務主体とはなり得ないため、結局認容された権利の帰属の観点から問題が生じる。また、構成員に実体法上帰属すべき権利を紛争の対象としている以上、客観的には他人の権利について争っているに過ぎない。そのため、当事者適格を認める余地がないように思える

(ウ) しかし、法人格なき社団に当事者能力を認めるにもかかわらず、当事者適格を認めないとするのでは、上記要請、さらには、紛争解決の実効性を真に実現することはできないため、何らかの構成により当事者適格を認め、かつ、団体構成員へ判決効を及ぼす必要性がある。

また、法人格なき社団の構成員は、団体へ自らの意思で参加していること、構成員が団体の意思決定に参画していることにかんがみると、団体が構成員の代わりに訴訟を代行することを構成員は明示又は黙示の意思により許容していると捉える余地がある。

(エ) そこで、法人格なき社団は、団体構成員の明示又は黙示の合意があると認められる場合には、任意的訴訟担当の方法で訴訟を追行することができ、この場合には当事者適格が認められうると考える。

(2) 任意的訴訟担当の方法によって当事者適格を認める余地があるとしても、明文にこのような場合に任意的訴訟担当をすることができる旨が記載されていない。そこで、明文なき任意的訴訟担当が認められるかが問題となる。

ア 弁護士代理の原則(民事訴訟法54条1項本文)、訴訟信託の禁止(信託法10条)の趣旨は、非弁活動によって当事者の利益が害されることを防止した上で、司法制度の健全な運営を図る点にある。そうだとすれば、弁護士代理の原則、訴訟信託の禁止の趣旨に反せず、合理的必要性がある場合には、任意的訴訟担当を認めても問題ない。

そこで、弁護士代理の原則、訴訟信託の禁止の趣旨を回避、潜脱するおそれがなく、任意的訴訟担当を認める合理的必要性がある場合には任意的訴訟担当を行うことが許容されると考える。

イ 訴訟追行を行う者は構成員、もしくは、構成員が合意により委任した者となること、団体内部の規則に基づいた上で構成員全体の利益のために訴訟追行が行われること、団体構成員それぞれよりも紛争の実態に精通した者によって訴訟追行が行われること、前述したとおりの必要性、が認められる場合には法人格なき社団においても弁護士代理の原則、訴訟信託の禁止の趣旨を回避、潜脱するおそれがなく、任意的訴訟担当を認める合理的必要性があるといえる。

よって、法人格なき社団が任意的訴訟担当の方法という当事者適格が認められる形で訴訟を追行することも、各種要件をみたす範囲内において許容されうる。

5 Xにおいては、本件議定書についての事情について一般の構成員よりも詳しい者が、本件議定書の内容を実現するために訴訟追行することが想定されるため、任意的訴訟担当を認める合理的必要性がある。また、Xの構成員はXへ自らの意思で参加していること、構成員が団体の意思決定に参画していることから、Xが団体構成員の代わりに訴訟追行することについて、団体構成員の明示又は黙示の合意があるといえるため、任意的訴訟担当を行うことについての授権があり、それが許容されると考えられる。

以上より、Xは団体構成員の授権に基づき、任意邸訴訟担当の方法を採ることにより当事者適格が認められるため、裁判所は訴え却下判決をするのではなく、本案判決をすべきである


1 ここの当てはめは正直よくわかりません。最判平成14年6月7日民集56-5-899は、財産的側面に関して、独自財産不要説を採用したと評価されているみたいですが、これにより要件④が直ちにみたされる、というように緩やかに考えているのか、これに加えて、代表の方法、総会の運営、などが決定されていることを要件④を満たす要件として要求する、というようにやや厳格に考えているのかは個人的に要検討事項です。あくまでもそれらが考慮要素として例示的に挙げられているにすぎないと考えるのであれば、上記のように要件④をみたすとしても良いのではないかと考えました。しかし、この点を捉えて「団体としての主要な点が確定している」と評価することは少し横暴な感じもしており、非常に悩みどころです。

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