【Law Practice 民事訴訟法】基本問題6:代表権と表見代理

Law Practice 民事訴訟法
この記事は約5分で読めます。

1 XはY社に対して、売買代金支払請求の訴えを提起して、Xの請求を全部認容する旨の判決がなされた。

本問では、Xによって被告とされたAはY社の代表者としての資格を有しないため、真正な「法定代理人」(民事訴訟法37条、133条2項1号)に対する訴状の送達(民事訴訟法37条、102条1項、138条1項)が行われていない。この点を理由として、Y社は訴訟要件が欠缺しており、訴え却下判決がなされるべき旨を主張している。

2 しかし、XがAを被告たるY社の「法定代理人」として記載したのは、XがY社の商業登記簿(会社法911条3項15号、商業登記法54条1項)を確認したところ、代表取締役としてAの名前が記載されていたことを理由とする。Xは商業登記簿という外観を信頼して、AをY社の「法定代理人」と記載しているため、この信頼を保護して、真正な「法定代理人」に対する訴状の送達が行われたものとできないか。会社法908条2項等の実体法上の表見法理規定を訴訟行為に類推適用することができるかが問題となる。

(1) 表見法理規定の趣旨は、取引安全を保護する点にあり、取引行為ではない訴訟行為においては、その趣旨が妥当せず、類推する基礎を欠く。また、表見法理の類推適用を認めた場合には、法人が真正な代表者によって裁判を受ける権利(憲法32条)を奪うことになるため、本人たる法人の不利益が大きい。さらに、表見法理による場合には、相手方の主観によって処理が異なるため(民法109条、110条、112条など)、手続の画一的処理の観点から妥当性を欠く。

そこで、実体法上の表見法理規定を訴訟行為に類推適用することはできないと考える。

(2) 本問においても、会社法908条2項等の実体法上の表見法理規定を類推適用することはできない

3 したがって、真正な「法定代理人」に対する訴状の送達が行われていないと捉えるしかないため、適式な訴状送達があったとはいえない

そこで、控訴審裁判所は第一審判決を取り消し(民事訴訟法306条)、第一審裁判所への差戻し(民事訴訟法308条2項)を行うべきである

4 なお、その後、第一審の裁判長は、Y社の代表者が不明である場合にはXの申立て(民事訴訟法35条1項)に応じて、Y社の特別代理人の選任(民事訴訟法148条1項)を行った上で、原告たるXに訴状の補正を命じ(民事訴訟法59条、34条1項)、適式な訴状送達を行うべきである。そして、原告が補正手続を行わない場合には、訴訟要件欠缺を理由として訴え却下判決をすべきである。


 表見法理の類推適用を否定する説からは、「控訴審裁判所は〜判決をすべきである」という結論を導き出せないように思います。というのも、この場合は何らかの判決を出す主体は第一審裁判所であるからです。この点からも、この問題は表見法理の類推適用を肯定する見解に立つことを想定して作問されていることがわかりますね(解説も肯定説に寄っていると思われます)。


【表見法理の類推適用肯定説から】

2 しかし、XがAを被告たるY社の「法定代理人」として記載したのは、XがY社の商業登記簿(会社法911条3項15号、商業登記法54条1項)を確認したところ、代表取締役としてAの名前が記載されていたことを理由とする。Xは商業登記簿という外観を信頼して、AをY社の「法定代理人」と記載しているため、この信頼を保護して、真正な「法定代理人」に対する訴状の送達が行われたものとできないか。会社法908条2項等の実体法上の表見法理規定を訴訟行為に類推適用することができるかが問題となる。

(1)ア 表見法理の趣旨は取引安全の保護にあるため、訴訟行為にはその趣旨が及ばないとも思えるが、取引行為に関する訴訟においてその要請が及ぶ余地は否定できない。また、法人の真正な代表者によって裁判を受ける権利(憲法32条)は、尊重に値するものの、法人の実態に反する登記をしていた点に帰責性が認められる以上は、その登記を信頼した者の保護を優先すべきである。さらに、民事訴訟法36条は、代理権の存在という外観に対する信頼を保護する規定であり、この規定の存在は、訴訟行為に対しても表見法理の適用可能性があることを示している。

そこで、実体法上の表見法理規定を訴訟行為に類推適用することができると考える。

イ 本問においても、Xは商業登記簿という外観を信頼して、AをY社の「法定代理人」と記載しているため、この信頼を保護して、真正な「法定代理人」に対する訴状の送達が行われたものする余地がある。

(2)ア 実体法上の表見法理においては、①真実に反する外観が存在すること②その外観を第三者が信頼したこと③外観の作出について真の権利者に帰責性があることが認められる場合に、真の権利者は外観どおりの責任を負う。それでは、本問事案において表見法理の要件がみたされるか

イ(ア) 本問において、Y社の商業登記簿には、代表取締役としてAの名前が記載されていたため、真実に反する外観が存在している。

(イ) そして、Xはこの商業登記簿を信頼して、AをY社の「法定代理人」と記載した。

(ウ) Y社はAを代表取締役として選任し、Aの承諾が得られていないにもかかわらず、商業登記簿にAの名前を記載した。AはY社とは異なる会社で勤務している者であり、代表取締役としての業務は何ら行っていないため、Y社は代表取締役としてAの名前を商業登記簿に記載すべきでなかったことは明らかであるし、Y社は適切な手続によって、代表取締役を選任すべきであったのに、それをしなかった。以上の事情にかんがみると、Y社には、Aを代表取締役とする実態に反する商業登記簿を作出した点について帰責性が認められる。

(エ) よって、本問事案において表見法理の要件はみたされる

ウ したがって、実体法上の表見法理を類推適用できるため、真の権利者たるY社は外観どおりの責任を負う

3 以上より、Y社を上記主張は認められず、訴状の送達は有効に行われているため、第一審判決に瑕疵は認められない。したがって、控訴裁判所は、控訴審の審理を継続した上で、本案判決をすべきである。

コメント

タイトルとURLをコピーしました