【事例演習 刑事訴訟法】15:訴因変更の要否

事例演習 刑事訴訟法
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1 検察官が被告人の犯罪について構成した訴因は、建造物侵入罪(刑法130条前段)と窃盗罪(刑法235条)の甲との共同正犯(刑法60条)である。これに対して、裁判所は、被告人は甲の建造物侵入及び窃盗を幇助した(刑法62条1項)との心証を抱いた。

裁判所は訴因変更をすることなく、この心証どおりの事実を認定することができるかを検討する。まず、訴因変更がどのような場合に必要とされるかが問題となる。

(1) 当事者主義的訴訟構造(刑法256条6項、298条1項、312条1項等)のもとでは、審判対象は検察官が主張する具体的犯罪事実たる訴因である。そのため、訴因と心証との間で、事実に変化があった場合には、変更が必要である。しかし、些細な事実の変化がある場合に常に変更を要求することは現実的でない。そこで、一定の重要な事実に変化があった場合にのみ訴因の変更が必要となる。

そして、訴因の機能は、裁判所に対して審判対象を明示する識別機能と、被告人に対して防御の範囲を明示する防御機能とがあるところ、審判対象が明示されていればおのずと防御の範囲も明確になると考えられるため、識別機能こそ訴因の第一次的な機能といえる。

そこで、①審判対象の画定、識別に必要な事実に変化があった場合には訴因変更が必要と考える。そして、②それ以外の事実であっても、被告人の防御にとって重要な事項といえ、かつ、それが訴因として明示されている場合には、訴因変更が必要と考える。ただし、②’被告人の防御の具体的状況などの審理の経過に照らし、被告人に不意打ちとなるものでなく、かつ、裁判所が認定する事実が訴因事実と比べて被告人にとって不利益といえない場合には例外的に訴因変更は不要と考える。

(2)ア 共同正犯と幇助犯とは、構成要件を異にするため、審判対象の画定に必要な事実に変化があったといいうる。

しかし、共同正犯と幇助犯とは、共犯関係における犯罪として同質の犯罪といえ、幇助犯は共同正犯の場合と比べて、軽い刑罰が予定されている(刑法63条)。それならば、共同正犯は幇助犯を内包するため、検察官が訴因において黙示的、予備的に主張していたものと考えられる。この場合、訴因内での認定の一態様にすぎないため、裁判所が幇助犯として認定する際に訴因変更は不要である。

イ 本問においても、上記のとおり訴因変更が不要とも思える。

しかし、検察官は訴因として「共謀の上」と示した上で、正犯としての構成要件該当事実を示したにすぎない。幇助犯と正犯とは、自己の犯罪として行ったのか否かという点で明らかに犯行の態様が異なるし、正犯としての構成要件事実の摘示によって、あらゆる態様の幇助犯を黙示的、予備的に示したものと捉えることは困難である。それならば、審判対象の画定に必要な事実について変化があったといえ、訴因変更は必要である。

2 以上より、裁判所は訴因変更をすることなく、心証どおりの事実たる建造物侵入、窃盗の幇助犯としての事実を認定することはできない


【縮小認定を認める見解から】

1 検察官が被告人の犯罪について構成した訴因は、建造物侵入罪(刑法130条前段)と窃盗罪(刑法235条)の甲との共同正犯(刑法60条)である。これに対して、裁判所は、被告人は甲の建造物侵入及び窃盗を幇助した(刑法62条1項)との心証を抱いた。

裁判所は訴因変更をすることなく、この心証どおりの事実を認定することができるかを検討する。まず、訴因変更がどのような場合に必要とされるかが問題となる。

(1) 当事者主義的訴訟構造(刑法256条6項、298条1項、312条1項等)のもとでは、審判対象は検察官が主張する具体的犯罪事実たる訴因である。そのため、訴因と心証との間で、事実に変化があった場合には、変更が必要である。しかし、些細な事実の変化がある場合に常に変更を要求することは現実的でない。そこで、一定の重要な事実に変化があった場合にのみ訴因の変更が必要となる。

そして、訴因の機能は、裁判所に対して審判対象を明示する識別機能と、被告人に対して防御の範囲を明示する防御機能とがあるところ、審判対象が明示されていればおのずと防御の範囲も明確になると考えられるため、識別機能こそ訴因の第一次的な機能といえる。

そこで、①審判対象の画定、識別に必要な事実に変化があった場合には訴因変更が必要と考える。そして、②それ以外の事実であっても、被告人の防御にとって重要な事項といえ、かつ、それが訴因として明示されている場合には、訴因変更が必要と考える。ただし、②’被告人の防御の具体的状況などの審理の経過に照らし、被告人に不意打ちとなるものでなく、かつ、裁判所が認定する事実が訴因事実と比べて被告人にとって不利益といえない場合には例外的に訴因変更は不要と考える。

(2)ア(ア) 共同正犯と幇助犯とは、構成要件を異にするため、審判対象の画定に必要な事実に変化があったといいうる。

(イ) しかし、共同正犯と幇助犯とは、共犯関係における犯罪として同質の犯罪といえ、幇助犯は共同正犯の場合と比べて、軽い刑罰が予定されている(刑法63条)。それならば、共同正犯は幇助犯を内包するため、検察官が訴因において黙示的、予備的に主張していたものと考えられる。この場合、訴因内での認定の一態様にすぎないため、幇助犯として認定する際に審判対象の画定に必要な事実に変化があったとはいえない。

(ウ) なお、検察官は訴因として「共謀の上」と示した上で、正犯としての構成要件該当事実を示したにすぎず、幇助犯としての行為を何ら示していない。この点にかんがみると、検察官が訴因において黙示的、予備的に主張していないとも思える。

しかし、「共謀の上」で実行した、という抽象的な摘示に、共謀に至らない程度の幇助によって正犯の実行行為を容易にした、という内容が内包されているため、やはり、検察官が訴因において黙示的、予備的に主張していたと評価でき、やはり、審判対象の画定に必要な事実に変化があったとはいえない。

イ(ア) 共同正犯は、正犯として犯罪を実行するものであり、幇助犯は正犯者の実行行為を容易にするものである。それならば、犯行の態様は両者で異なる。犯行の態様が異なる以上、被告人が防御の対象として争うべき実行行為や故意の不存在について、争うことができず、被告人への不意打ちとなる危険性がある。そのため、被告人の防御にとって重要な事項といえる。

(イ) 検察官は訴因に「共謀の上」「侵入し」「窃取した」というように、被告人が共同正犯として犯罪を実行した旨を記載している。そのため、このことが訴因として明示されているといえる。

(ウ) よって、原則として、訴因変更が必要である

ウ(ア) もっとも、被告人が甲の建造物侵入及び窃盗を幇助したことを裁判所が心証として抱いた契機は、被告人の弁解にある。裁判所は、被告人の弁解どおりの心証を抱いたものであり、審理の経過において、被告人は十分に自身の犯した犯罪が幇助犯であることを主張立証し尽くしていると考えられる。それならば、裁判所が幇助犯を認定することは、被告人に対する不意打ちとなるものではない

(イ) 裁判所が認定する幇助の事実は、訴因として構成された共同正犯の事実よりも、軽いものである(刑法63条参照)。よって、裁判所が認定する事実が訴因事実と比べて被告人にとって不利益といえない

(ウ) したがって、例外的に訴因変更は不要である

2 以上より、裁判所は訴因変更をすることなく、心証どおりの事実たる建造物侵入、窃盗の幇助犯としての事実を認定することができる

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