第1 設問前段について
1 X1はYに対して、遺言無効確認訴訟を提起しているが、これは適法といえるか。まず、確認の利益が認められるかを検討する。その前提として、確認の利益の存否の判断基準が問題となる。
(1) 確認の訴えを提起する場合には、確認対象が無限定となるおそれがある。また、確認の訴えは執行力が生じない。それならば、確認の利益は真に紛争解決の必要性と実効性がある場合に限定する必要がある。
そこで、原告の有する権利や法律上の地位に危険または不安が存在し、その危険や不安を除去するために確定判決を得ることが有効かつ適切である場合に確認の利益があると考える。具体的には、①対象選択の適切性、②方法選択の適切性、③即時確定の利益、のいずれもみたす場合に確認の利益があると考えられる。
(2)ア(ア) 遺言の有効性は、過去の法律関係に関する問題である。
過去の法律関係に関する問題を確認しても、現時点までの間に変更が生じる場合が多く、現在の紛争解決として有益ではないこと、確認対象としている関係の効果たる法律関係について確認すれば足り、その方が適切であることから、一般的に過去の法律関係ではなく、現在の法律関係を対象とすべきとされる。
過去の法律関係に関する問題は、派生的な法律関係の基礎となるものについて、その派生的法律関係に関する訴訟の中で過去の法律関係に関して審理判断することも可能ではある。
しかし、利害関係人が多い場合や、基礎となる法律関係の存否によって採るべき紛争解決手段が異なる場合などには、かえって紛争が煩雑、複雑となり、困難を招く可能性や訴訟経済に反するおそれがある。
そのような場合には、基礎となっている法律関係の存否や有効性を確認することが関連紛争の抜本的解決につながるとして確認対象として適切といえる。
(イ) X1は、遺言の有効性に関する派生的な紛争として、Yに対して、法定持分権に基づく本件不動産の使用収益の対価分の不当利得返還請求(民法703条、704条)や、遺留分侵害額請求訴訟(民法1046条1項)などを提起することが考えられる。
しかし、不当利得返還請求はAの遺言の有効を前提とする紛争解決手段であり、遺留分侵害額請求は遺言の無効を前提とする訴訟である。遺言の有効性の判断によって採るべき紛争解決手段が異なる以上は、それらの訴訟の中で遺言の有効性について判断するよりも、別途遺言無効確認請求等の方法で遺言の有効性につき既判力(民事訴訟法114条1項)を伴った判断が下されることが派生的紛争の迅速かつ適切な紛争解決に資するといえる。
よって、X1の遺言無効確認請求は過去の法律関係に関する確認といえども、その法律関係の存否や有効性を確認することが関連紛争の抜本的解決につながるといえるため、確認対象として適切である。
イ 以上の点にかんがみると、直接的に不当利得返還請求や、遺留分侵害額請求という給付の訴えをするのではなく、遺言の有効性について確認するという方法を採ることに合理性があるため、確認の訴えを行うことは方法選択として適切である。
ウ X1はAの相続人としての地位を有するため、Aの死亡に伴ってAの財産を相続する可能性がある。しかし、Aの遺言によってAの財産たる本件不動産がYに譲渡されている。そのため、X1の相続人としてAの財産を承継する可能性があるという地位がYによって害されていると評価できる。よって、即時確定の利益が認められる。
(3) したがって、X1が提起した遺言無効確認訴訟に確認の利益が認められる。
2 遺言が無効か否かという判断は、相続人全員に対して利害関係を生じる問題である。それならば、相続人全員に対して合一確定をもたらすべき訴訟として、必要的共同訴訟(民事訴訟法40条1項)とすべきといえ、X1は他の相続人であるX2を共同原告、または共同被告に加えて訴訟を提起したわけではないため、当事者適格が欠けているのではないか 1。
(1) 遺言無効確認訴訟は、あくまでも訴訟当事者間において相続財産に対する権利が存在するか否かを判断するものであり、実体法上不可分の権利とはいえない。また、その場合、相続人間で持分割合が変わる可能性もあるが、既判力が「当事者」間にしか及ばない(民事訴訟法114条1項、115条1号)以上、当然の帰結といえ、問題とはいえない2。
そこで、遺言無効確認訴訟は必要的共同訴訟とすべきではない。
(2) よって、本件訴訟において、当事者適格はみたされる。
3 以上より、X1が提起した遺言無効確認訴訟は訴訟要件をみたし適法であるため、裁判所は本案判決を行うべきである。
第2 設問後段について
上述のとおり、遺言無効確認訴訟は必要的共同訴訟ではない。
よって、上記訴訟において請求棄却判決が確定したとしても、合一確定の要請がはたらくものではないため、X2は改めてAの遺言の無効確認訴訟を提起できる3。
Footnotes
- この書き方は固有必要的共同訴訟に当たる場合を想定して、包括的に対応できるように書いているつもりです。類似必要的共同訴訟に当たる場合には、利害関係者全員を原告または被告の地位に含めることが当事者適格を認めるための要件とはならないはずなので、この点は問題とならないと考えています。
- 判例は必要的共同訴訟であることを否定したようです。しかし、Law Practiceの記載のみでは、私の理解力では理由づけが理解できませんでした。そのため、それっぽく書いているだけです。判例を検索して、判旨を読みたいです(なお、現在はWestlaw Japanが使えないため、断念)。
- あまり何が聞きたいのか理解できませんでした。
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