1 裁判所は、X会に紛争管理権があることを理由として、X会に当事者適格を認めることはできるか1。
(1)ア 不特定多数者の拡散的利益に関して、その実体法上の利益帰属主体に対してしか当事者適格が認められないとすると、個々の原告適格者は仮に勝訴しても些細な利益しか得られない反面、訴訟追行の負担が比較的大きいことから、実際上訴訟追行されることが見込めないこと、裁判所や被告にとって無数の紛争を処理する負担が生じること、といった問題点が生じる。
イ 訴え提起に先立って紛争解決のための活動に従事してきた団体に当事者適格を認めるのであれば、誠実な訴訟追行が期待でき、上記問題点も解消できる。そこで、このような団体に紛争管理権を認め、これを基礎として当事者適格を認めるとする見解がある。
(2) しかし、 法律上の規定や、当事者からの授権がないにもかかわらず、実体法上の権利主体ではない者に訴訟追行権を得させるのは妥当ではない。
(3) したがって、裁判所は、X会に紛争管理権があることを理由として、X会に当事者適格を認めることはできない。
2 裁判所は、X会が、任意的訴訟担当という形で、Xらを訴訟担当すると構成して、X会に当事者適格を認めることはできるか。(メモ:この前にXらの固有の当事者適格、Xらからの授権の存在を認定しておくべき)
(1) 訴訟担当は、担当者が自ら当事者として訴訟を追行するものである。それならば、訴訟担当者は前提として、当事者能力(民事訴訟法28条)を有している必要がある。それでは、X会に当事者能力が認められるか。
ア 当事者能力は実体法上の規定で権利能力が認められる者に認められ(民事訴訟法28条)、民法上の権利能力者である人と法人がこれに当たる(民法3条1項、34条)。しかし、X会は法人格のないNPO団体であるため、当事者能力が認められないのが原則である。
イ もっとも、X会は「社団」(民事訴訟法29条)として、当事者能力が認められないか。法人格なき社団について「社団」(29条)に当たるとして当事者能力を認めるための要件が条文の記載から明らかではなく、問題となる。
(ア) 法人格なき社団について「社団」(29条)に当たるとして当事者能力を認めるためには、①団体としての組織を備えていること、②多数決の原理が機能していること、③構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続すること、④その組織において、代表の方法、総会の運営、財産の管理など、団体としての主要な点が確定していることが必要と考えられる。
(イ) X会はA湾の環境保護を目的としたNPO団体であり、団体としての組織を備えている(①)。X会の規約によると、意思決定の方法は多数決であるとされ(②)、規約の存在等から、構成員が変動しても団体としての同一性は維持されると考えられる(③)。そして、X会の規約において、代表の選出方法や、会費の管理方法が定められており、団体としての主要な点は確定している(④)。
(ウ) よって、X会は「社団」として当事者能力が認められる。
(2) それでは、X会が、任意的訴訟担当という形で、Xらを訴訟担当することはできるか。明文なき任意的訴訟担当が認められるかが問題となる。
ア 弁護士代理の原則(民事訴訟法54条1項)、訴訟信託の禁止(信託法10条)の趣旨は、非弁活動によって、当事者の利益が害されるのを防止し、司法制度の健全な運営を図る点にある。それならば、任意的訴訟担当を行う合理的必要性があり、かつ、前述の趣旨に反しないのであれば、これも許容されるとすべきである。
そこで、明文なき任意訴訟担当も、①これを認めるべき合理的必要性があり、②弁護士代理の原則、訴訟信託の禁止の趣旨を回避・潜脱するおそれがない場合には許容されると考える。
イ(ア) Xら全員が個人それぞれの人格権に基づいてYに対する訴訟を提起した場合には、最大20にも及ぶ訴訟がYを被告として提起されることになり、被告と裁判所は過大な負担を強いられる。しかし、任意的訴訟担当という形でX会が担当者となって1つの訴訟の中でXらの紛争を解決に導く場合には、上記負担を回避した上で紛争を解決できるため、合理的な必要性がある。
(イ) X会は、Xらの多数決によって選出された者が代表者となり、運営を主導する団体であるため、Xらの利益はX会の訴訟追行の中で正しく実現されると考えられる。そして、X会は5年前からYの火力発電所建設計画について反対する住民とともに協議や話し合いに継続的に参加しており、もはや紛争の主体と同視できるほどの重要かつ緊密な関わり合いを有するに至っており、当該紛争について熟知している。それならば、弁護士代理の原則や訴訟信託の禁止の趣旨を回避・潜脱するおそれはないといえる。
(ウ) よって、X会は任意的訴訟担当という形で、Xらを訴訟担当することは許容される。
ウ そして、X会の規約によると、Xらの多数決に基づき代表者が選出されることなどから、X会が訴訟担当することについて、包括的授権がなされていると考えられる2。
(3) したがって、裁判所は、X会が任意的訴訟担当という形で、Xらを訴訟担当すると構成して、X会の当事者適格を認めることができる。
Footnotes
- この問題点については、これまであまり把握できていませんでした。Law Practiceに詳しく書いてあったので、一応自分の中で検討しておきたいと思い、記述しています。しかし、結局はこの見解を採らないこととなるため、時間的余裕がない場合には、優先して削るべき記述のように思われます。
- ここが私の中ではよくわからないポイントです。まず、①この包括的授権に関する記述をどこに位置づけるかがあまり判然としません。書くべきであることは間違いないのでしょうが、明文なき任意的訴訟担当の当てはめの中で書くべきなのか、別枠として書くべきなのか、ということです。私は悩んだ結果、合理的必要性、弁護士代理の原則、訴訟信託の禁止の趣旨の回避潜脱に当たるか、とは別次元の話だと考えたので、別枠で書きました。包括的授権があるからこそ弁護士代理の原則、訴訟信託の禁止の趣旨に合致する、と捉えれば、そこの当てはめで書くことになると思います。しかし、包括的授権があることは、任意的訴訟担当を行う許容性を意味することはあったとしても、必要性を意味するわけではないはずなので、合理的必要性の中で書くべきではないと思われます。次に、②別枠で書くとした場合に、明文なき任意的訴訟担当の前に書くのか、後ろに書くのかがわかりませんでした。明文なき任意的訴訟担当がそもそも認められないのなら、包括的授権があっても訴訟担当との関係では意味をなさないため、包括的授権について、後ろに書くべきだと考えました。しかし、そもそも包括的授権がないのであれば、任意的訴訟担当が認められても認められなくても、訴訟担当できません。このことを考えるのであれば、記載の順番に必然性はなく、「どちらから書いても良い」ということに落ち着くのでしょうか。最後に、③そもそも包括的授権があったと評価できるのかがわかりません。本書の解説では、認められるという趣旨で記載されていたと思いますが、どの程度の事実があれば包括的授権の存在を認めても良いのかがあまりよくわかりません。
コメント