【Law Practice 民事訴訟法】基本問題12:訴訟物

Law Practice 民事訴訟法
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第1 設問(1)について

1 Aは治療費100万円、逸失利益800万円、慰謝料300万円の合計1200万円の支払を求めて訴えを提起しているが、裁判所は治療費50万円、逸失利益500万円、慰謝料450万円の合計1000万円と判断した。

裁判所がこの判断をもととして判決を下すことは、慰謝料について、Aの申し立てた範囲を超える額を裁判所が認定するものとして、処分権主義(民事訴訟法246条参照)に反しないか訴訟物の単一性をどのように判断するかが問題となる。

(1)ア 処分権主義とは、訴訟の開始、審判対象の画定、その範囲の特定、訴訟の終了について、当事者の主導権を認め、その処分に委ねる原則をいう(民事訴訟法246条参照)。そして、その機能・趣旨は、原告の意思を尊重し、また、被告に対する不意打ちを防止する点にある。

イ(ア) 損害賠償請求において、原告は、損害の発生原因事実や被侵害利益を共通とする請求については、たとえ裁判所の認定の内訳が異なるとしても、請求棄却判決ではなく、一部認容判決を求める意思であることが通常である。

(イ) 被告について、損害の発生原因事実や被侵害利益を共通とする請求については、争うべき対象として明示されており、主張立証を尽くすことができるため、その請求の総額を超えない限りは不意打ちとなるようなものではない。

ウ そこで、損害の発生原因事実、被侵害利益を共通とする請求については、単一の訴訟物であると捉えるべきである。

(2) 本問では、Aの提起した訴えの中で示された損害項目は、いずれもAとBの衝突事故という不法行為を発生原因とするものである。また、被侵害利益も身体上のものか精神上のものかという違いはあるものの、Aに関する人的損害である点では異なるところはない4ため、共通している。

それならば、Aの提起した訴えの中で示された損害項目はいずれも1つの訴訟物の範囲内にあるといえる

2 以上より、裁判所の判断は単一の訴訟物について、その請求された範囲内で認定するものにほかならず、処分権主義に反しないしたがって、裁判所が認定どおりの判決をすることは適法である

第2 設問(2)について

1 Aが後訴において明示した訴訟物は、前訴と発生原因事実、被侵害利益を共通とする損害に関するものであるため、前訴と同一である。そのため、Aは当該訴訟物について、前訴で判決が確定したにもかかわらず、後訴で改めて提起していると考えられる。このように、同一の訴訟物について、前訴の判決確定後に改めて請求することは認められるか56

(1) 原告は、実体法上私的自治の原則の観点から、債権の一部を行使する自由がある。さらに、訴訟法上も処分権主義が採られている以上、債権を分割して請求することは否定されない。そこで、一部請求は当然に認められるといえる。債権全体の実効性を確保するためにも、残部に関する請求も認められるべきである。

そうだとしても、原告が前訴で一部である旨を明示せずに訴訟を提起した場合にも当然に残部請求ができるとすると、前訴において債権全体につき紛争が終了したとの被告の期待に反し、不意打ちとなりかねない

そこで、原告が前訴で一部である旨を明示せずに訴訟を提起した場合に限って、前訴の判決確定後に同一の訴訟物についての訴えを改めて請求することは認められるものであり、その場合には、前訴で明示した一部のみが訴訟物となると考える。

(2) 本問では、Aが前訴において、当時予想できなかった後遺症を除く部分のみを請求する趣旨であることを明示していない。よって、前訴での訴訟物は、AB間で生じた交通事故につき生じた全損害と考えるべきであり、Aの後訴における請求は既判力(民事訴訟法114条1項)にによって遮断され、請求棄却判決がなされるのが原則である。

2(1) しかし、このような結論は社会生活上通常は予見し難い後遺症が生じた場合に、後遺症被害者の救済を一般的に否定することになりかねず、妥当ではない

そして、前訴の請求について、事実審口頭弁論終結時までに生じた損害のみについて提起する趣旨であるという意思があると捉えることも不可能ではない。このように考えられば、前訴請求が一部請求としてなされたものと考えることができる。

そこで、後遺症による損害賠償請求については、一部として明示された前訴請求を前提とする残部請求と捉えるべきであると考える。

(2) 本問でAが提起した後訴は後遺症による損害賠償請求権を訴訟物としており、前訴請求はこれとは別の部分を訴訟物として構成したものと捉えられるため、前訴既判力は、Aの後訴における請求には及ばない

3 以上より、裁判所は後訴訴訟物についての存否を判断した上で、その存否に対応した本案判決を下すべきである。

Footnotes

  1. 被侵害利益を抽象的に捉えるのであれば、このように考えられそうです。しかし、少し違和感を覚えます。身体的損害は生命や身体という法益を侵害するものであること、精神的損害は精神の平穏(???→少なくとも、生命や身体ではないような感覚があります)という法益を侵害するものであることを考慮すれば、別の結論になりそうなのでしょうが、いかがでしょうか。人的損害として一括りにすることが、そうしない場合と比べて、適切といえる理由が十分といえるのでしょうか。
  2. 私は当初この問題について、「訴え提起は認められるか」と記載していました。しかし、同一の訴訟物について前訴判決確定後に改めて訴えを提起したとしても、その主張が後訴において前訴確定判決の既判力によって遮断されるにすぎず、訴え自体は認められることになりそうです。それならば、訴え提起自体は認められる(=適法といえる)ので、この問題提起はおかしいことになります。
  3. 「訴え提起の適法性」に関連して、1つの疑問が生じました。このような場合について、仮に前訴と後訴の訴訟物が同一とした場合に、訴えの利益は認められるのでしょうか。後遺障害の場合等は、本案判決をする必要性を肯定することは容易でしょうが、後遺障害ではない場合には、通常は本案判決の必要性が否定されるように思います。しかし、このような事例について何度も問題を見たことがあるような気がしています。そして、問題となってくるのは、本案判決での主張レベルの問題であり、訴訟要件をみたしていることが前提となっています。それならば、訴えの利益はみたされている、ということになりますが、なぜ本案判決の必要性が認められるのでしょうか(参照すべき記載として、LegalQuest358頁が挙げられますが、理解できませんでした)。
  4. 被侵害利益を抽象的に捉えるのであれば、このように考えられそうです。しかし、少し違和感を覚えます。身体的損害は生命や身体という法益を侵害するものであること、精神的損害は精神の平穏(???→少なくとも、生命や身体ではないような感覚があります)という法益を侵害するものであることを考慮すれば、別の結論になりそうなのでしょうが、いかがでしょうか。人的損害として一括りにすることが、そうしない場合と比べて、適切といえる理由が十分といえるのでしょうか。
  5. 私は当初この問題について、「訴え提起は認められるか」と記載していました。しかし、同一の訴訟物について前訴判決確定後に改めて訴えを提起したとしても、その主張が後訴において前訴確定判決の既判力によって遮断されるにすぎず、訴え自体は認められることになりそうです。それならば、訴え提起自体は認められる(=適法といえる)ので、この問題提起はおかしいことになります。
  6. 「訴え提起の適法性」に関連して、1つの疑問が生じました。このような場合について、仮に前訴と後訴の訴訟物が同一とした場合に、訴えの利益は認められるのでしょうか。後遺障害の場合等は、本案判決をする必要性を肯定することは容易でしょうが、後遺障害ではない場合には、通常は本案判決の必要性が否定されるように思います。しかし、このような事例について何度も問題を見たことがあるような気がしています。そして、問題となってくるのは、本案判決での主張レベルの問題であり、訴訟要件をみたしていることが前提となっています。それならば、訴えの利益はみたされている、ということになりますが、なぜ本案判決の必要性が認められるのでしょうか(参照すべき記載として、LegalQuest358頁が挙げられますが、理解できませんでした)。

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