1 第2訴訟においては、Yの「住所、居所その他送達をすべき場所が知れない」場合に当たるとして公示送達(民事訴訟法110条1項1号)により、訴状が送達された(民事訴訟法133条1項)。
そのため、Yが訴状送達を受けられないまま、第1審判決が公示送達の方法によって下され(民事訴訟法374条1項、112条1項)、判決効(民事訴訟法114条1項等)が生じるに至っている。それでは、Yはいかなる救済を求めることができるか。
2 Yは第2訴訟の確定判決を取り消し、改めて第1審を初めからやり直すため、再審の訴え(民事訴訟法338条)を提起することが考えられる1。一見すると、本問の事案において各号の文言には該当しない。そこで、手続関与ができなかった場合に、いかなる規定に基づいて再審の訴えを提起できるかが問題となる。
(1)ア 民事訴訟法338条1項3号の趣旨は、必要な授権を欠く代理人によって訴訟が追行されることによって、手続保障を欠くこととなった当事者を保護する点にある。そのため、当事者に手続関与の機会が確保されなかった場合には、民事訴訟法338条1項3号を類推する基礎があるといえる。
他方で、公示送達の趣旨は、被告の住所不明等の理由により、原告が訴訟手続を受けられないとするのでは、紛争解決が図れなくなり、妥当ではないため、そのような場合にも原告の確定判決を得る利益を確保する点にある。ここでは、原告の確定判決を得る利益を考慮して、被告の手続保障を受ける利益を一定程度後退させることが立法上の前提とされているといえる。そして、この点にかんがみて、公示送達の要件は厳格なものとされている(民事訴訟法110条参照)。
それならば、公示送達によって被告の手続保障が欠如していることを理由として、いかなる場合にも再審の訴えが提起できるとするのは妥当ではなく、公示送達がなされた経緯に、被告の手続保障を後退させるにふさわしくない事由が存在する場合にのみ、338条1項3号の類推適用により、再審事由が認められると考えるべきである。
イ 本問では、原告側はYの住所について3回の調査報告を行い、そこで判明した住所に対しての送達を試みていること、原告Xの訴訟代理人Aは、偶然被告Yの訴訟代理人Bと出会った際にYの住所を通知する旨を依頼していること、にかんがみると、被告Yへの送達を真摯に試みていたといえ、ここに不当な事由は存しない。
被告Yの訴訟代理人Bも上記依頼を受けたことにより、Yの住所と思われる住所をAに対して通知しているため、ここに手続上不当な点は存しない2。
よって、民事訴訟法338条1項3号の再審事由は認められない。
(2) 民事訴訟法338条1項5号によることも考えうるが、この事由が認められるためには、少なくとも確定判決が得られたことに関して、有罪の確定判決等が必要となる(民事訴訟法338条2項)。本問でそれに当たる事情はないため、民事訴訟法338条1項5号の再審事由は認められない。
(3) したがって、Yは再審の訴えを提起することはできない。
3 公示送達後2週間の控訴期間(民事訴訟法285条)を経過すると、原則として控訴の提起(民事訴訟法286条1項)はできない。しかし、「責めに帰することができない事由」が存した場合には、例外的に控訴の追完が認められる(民事訴訟法97条1項)。そこで、Yは「責めに帰することができない事由」があったとして、控訴を追完することができないか。
(1) 公示送達は、被告の住所が判明しないときになされる送達方式であることにかんがみると、被告が訴訟があったことをまったく知らずに、確定判決の効果を受けることも当然に想定されている。それならば、公示送達がなされたことそれ自体を帰責事由がなかった場合に当たるとして、常に控訴の追完を認めてしまうと、原告の紛争解決への期待が害され妥当ではない。
そこで、公示送達がなされた場合に「責めに帰することができない事由」があったといえるのは、公示送達がなされることそれ自体が当事者の合理的期待に反する場合に限られると考えるべきである。
(2) 本問では、第1訴訟の訴え段階において、XとYが代表するZ社との利害対立は明白であり、XがYに対して第2訴訟を提起することが予想される状況であった。これは、第2訴訟の訴状が送達されることにつきY及びその訴訟代理人Bは予期できたことを意味し、Yの住所が不明となった場合に公示送達がなされるであろうことも予期できたといえる。
さらに、Yの訴訟代理人Bは、Xの訴訟代理人Aから第2訴訟が係属していることについて知らされている。それならば、Y及びその訴訟代理人Bは第2訴訟の判決が公示送達の方法でなされることを予期できたといえるし、公示送達を回避するため、Yが送達を有効に受けられる状況を整えることもできたと考えられる。
以上の事情にかんがみると、公示送達がなされることそれ自体がY及びYの訴訟代理人Bの合理的期待に反するとはいえない。
(3) Yは「責めに帰することができない事由」があったとして、控訴を追完することはできない。
4 以上より、Yは訴訟上、何らの救済を求めることができない。
Footnotes
- 再審の訴えと控訴の追完のいずれから書き始めるかについて、諸説あると思いますが、再審の訴えを提起できる期間が控訴の追完ができる期間と比べて長期なこと(民事訴訟法342条、97条1項参照)や、審級の利益が害されない点でYにとってより有利なのは再審の訴えだと思い、再審の訴えから書いています。本書もおそらく同じ考えのもとで再審の訴えから解説されているものと思われます。
- ここは正直怪しい気もします。訴訟代理人BがYの住所をAに通知したのが、Aの依頼の数ヶ月後であることからすると、訴訟代理人Bがまともに訴訟追行しようとしていなかったことも予想されます。訴訟代理人Bが本当にYの住所を知らなくて、それを調べるのに時間がかかってしまった、という事情があれば訴訟代理人Bが誠実にYの利益を実現しようとしていたともいえますが、そのようなことはあり得るのでしょうか? YはZ社の代表者ですし、訴訟代理人Bが住所がわからないということは考えづらいような印象があります。仮に訴訟代理人Bがまともに訴訟追行しようとしていなかったと認定するのであれば、民事訴訟法338条1項3号の趣旨は、必要な授権を欠く代理人によって訴訟が追行されることによって、手続保障を欠く当事者を保護する点にある以上、必要な授権を欠くのと同視して、類推適用を認める書き方も説得力があるかと思います。ただし、そのような訴訟当事者、訴訟代理人間のいざこざによる不利益を原告に課してしまうことになるのも問題が大きいような感じがするため、かなり検討の余地がある部分だと思います。原告の訴訟終了への期待と、被告の手続保障との比較衡量によって判断するなどの規範を組み立てるのであれば、この事情はかなり使えそうですね。
コメント