【Law Practice 民事訴訟法】基本問題14:訴えの取下げの合意

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第1 設問前段について

1 Yは訴えの取下げを行うことについてXとの間で合意したことを理由として、Xは訴えを取り下げるべき旨を主張している。訴えの取下げの合意については、訴訟契約としての明文の規定がないが、有効になされたものといえるか明文なき訴訟契約の有効性が問題となる。

(1)ア 裁判所は、日々発生する大量の訴訟を円滑かつ能率的に処理する必要があるため、当事者が訴訟手続の内容を改変したり、その進行について合意することは認められないのが原則である。

イ しかし、弁論主義や処分権主義(民事訴訟法246条参照)の妥当する領域においては、当事者は主導的地位を与えられており、いかなる訴訟行為をするかは自由といえ、裁判所の手続上の利益を害することはない。

また、当事者間の訴訟上の合意によって生じうる不利益が明確であれば、当事者に不測の損害を与えるおそれもないため、裁判を受ける権利(憲法32条)の観点からの問題点は生じない。

ウ そこで、①弁論主義、処分権主義が妥当し、②合意により受ける不利益が明確に予測できるものである場合には、明文なき訴訟契約も有効と考える。

(2)ア 処分権主義とは、訴訟の開始、審判対象の特定、審判の範囲の確定、訴訟の終了について、当事者の主導権を認め、その処分に委ねる原則をいう。そして、訴えの取下げは、訴訟の終了に関する事項であるため、処分権主義が妥当する事項といえる。

イ 訴えの取下げについて合意した場合には、訴訟係属が遡及的に消滅すること(民事訴訟法262条1項)、終局判決後については再訴禁止効が生じること(民事訴訟法262条2項)、といった不利益が生じるが、これは明確に予測できるものである。

ウ よって、訴えの取下げの合意は有効になされたものといえる。

2 次に、XY間の訴えの取下げの合意が訴訟手続に対していかなる影響を及ぼすかを検討する。ここで、訴訟契約の効果が問題となる。

(1) 訴訟契約は、裁判所の関与が及ばない範囲において、当事者間でなされる合意である。それならば、私法の規律を受けるべき合意であるため、訴訟契約の法的性質は私法契約と考えるべきである。

そこで、訴訟契約は、合意当事者間に実体法上の作為不作為義務を生じさせるものであり、訴訟当事者は訴訟契約の存在を訴訟の中で主張立証して、それが認められて初めて訴訟上の効力が生じると考える。

(2) Xが訴えの取下げを行うべき旨の合意がなされた場合では、Xに訴えを取り下げる実体法上の作為義務が生じ、これをXYが訴訟手続内で主張立証すれば、訴訟上の効力が認められる

3 訴えの取下げの合意の効力が訴訟上認められた場合には、もはや原告Xには本案判決を得るべき訴えの利益が失われるため、裁判所は訴訟要件が欠缺したとして、訴え却下判決をすることになる。裁判所は、このようにして訴えの取下げの合意を訴訟関係に反映させるものである

第2 設問後段について

1 XはYとの間で交わした訴えの取下げの合意が、脅迫に基づくものであり、無効である旨を主張しており、裁判所はこの主張が認められると判断した。このような場合に、裁判所はいかなる判断をすべきか訴えの取下げの意思表示に瑕疵がある場合にその取下げを無効とすべきかが問題となる。

(1)ア 訴訟行為については、手続安定や明確性の要請が妥当するため、訴訟行為に民法の意思表示の瑕疵に関する規定が適用されないのが原則である。

イ しかし、「刑事上罰すべき他人の行為により」判決に影響する主張が妨害された場合には、再審の訴えを提起することができる(民事訴訟法338条1項5号)。これは、訴えの取下げが他人の詐欺や脅迫などの行為を原因として行われた場合にも妥当する。

そして、訴訟係属中に再審事由が判明した場合に、確定判決がなされるまで待ち、その後に再審の訴えをしなければならないとするのでは、訴訟経済、裁判の迅速性の観点から不当であり、訴訟係属中に訴えの取下げの無効を認める方が便宜である。

ウ そこで、訴訟係属中に訴えの取下げが「形事上罰すべき他人の行為」によって行われた場合には、民事訴訟法338条1項5号を類推適用して、訴えの取下げの意思表示を無効とすべきである。

(2) 本問では、XはYの「脅迫」(刑法222条1項)に基づいてXが訴えの取下げをしたものとして認定されており、これは「刑事上罰すべき他人の行為」に当たる。よって、Xの訴えの取下げの意思表示は無効とすべきである。

2 以上より、裁判所はXの訴えの取下げの意思表示を無効と判断すべきである。

 


第2 設問後段について【民法の意思表示規定類推適用肯定説から】

1 XはYとの間で交わした訴えの取下げの合意が、脅迫に基づくものであり、無効である旨を主張しており、裁判所はこの主張が認められると判断した。このような場合に、裁判所はいかなる判断をすべきか訴えの取下げの意思表示に瑕疵がある場合に、原告は民法の意思表示規定の類推適用によって、その意思表示の無効や取消しを主張できるかが問題となる。

(1)ア 訴訟行為については、手続安定や明確性の要請が妥当するため、訴訟行為に民法の意思表示の瑕疵に関する規定が適用されないのが原則である。

イしかし、訴えの取下げにおいては、この後訴訟手続が積み重ねられるおそれはないため、無効や取消しの主張を認めても手続の安定を害しない。

また、終局判決後に訴えを取り下げた場合には、再訴禁止効(民事訴訟法262条2項)が生じ、原告は実体法上の権利を放棄したに等しい不利益を受けるが、原告の取下げの意思表示に瑕疵がある場合にまでその不利益を受けさせるのは妥当ではない。

ウ そこで、訴えの取下げの意思表示に瑕疵がある場合には、民法の意思表示規定の類推適用が認められ、その意思表示の無効や取消しを主張することができると考える。

(2) 本問では、XはYから脅迫を受けて畏怖するに至り、それに基づいて取下げの意思表示をしたため、「強迫による意思表示」(民法96条1項)を行ったといえる。そこで、当該意思表示は民法96条1項の類推適用により、取消しを主張することができる

2 以上より、裁判所はXの訴えの取下げの意思表示を取り消されたものと判断すべきである。

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