【Law Practice 民事訴訟法】18:釈明義務

Law Practice 民事訴訟法
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1 控訴審裁判所が,筆跡についての証拠調べをすることなく,判決を下した点につき,釈明義務違反が認められるか,を検討する。

2 前提として,裁判所は,釈明義務を負うか。釈明権(民事訴訟法149条)については,明文の定めがあるものの,釈明義務については,規定が存在していないため,問題となりうる。

(1) 弁論主義が採用されている現行法の下では,裁判所は,当事者が主張していない事実や証拠を認定して,裁判の基礎とすることはできない(弁論主義第1テーゼ)。そのため,裁判所は,弁論の場に顕出している証拠のみに基づいて審理・判断を行えば足りるのであり,裁判所が当事者から主張・提出されていない事実や証拠についての釈明を行う義務はないとも思える。

(2) しかし,弁論主義を形式的に貫徹すると,実質的当事者平等や,十分な手続保障が阻害されるおそれがある。それにより,適正かつ公平な裁判の要請に反する場合もある。

(3) そこで,裁判所は,一定の範囲においては,釈明義務を負うと考えられる。

3 それでは,控訴審裁判所に対して,何らかの釈明義務が認められるか。ここで,裁判所が釈明義務を負うか否かの判断基準が問題となる。

(1)ア 裁判所が釈明義務を負うか否かは,釈明を行う必要性や,当事者平等の観点から捉えるべき問題である。

イ そこで,裁判所が釈明義務を負うか否かは,①釈明により,訴訟の勝敗が転換する蓋然性があったか②当事者の提示した法的構成に不備があったか③当事者に主張や証拠提出の期待可能性があったか④釈明権の行使・不行使が当事者平等にいかなる影響を与えるか,等の事情を総合的に考慮した上で判断すべきである。

(2)ア 上記①について

本問事案における争点は,抵当権順位変更契約書の作成名義の成立が真正なものといえるか,という点にあった。この点について,筆跡鑑定を行った結果として,X代表者Bの署名であることが判明する可能性もあり,その可能性が認められる以上は,筆跡鑑定を行うべき旨の釈明を行うことにより,Yの勝訴という判決を導く蓋然性があったといえる。

イ 上記③について

Yは第一審の裁判において,上記筆跡鑑定の申立てを行っている。しかし,第一審裁判所は,これを採用することなく,本件作成名義の真正を認定するに至っている。この事情にかんがみると,Yが控訴審裁判において,筆跡鑑定を行わずとも作成名義の真正が認められることを期待するのもやむを得ない。また,第一審裁判所で申立てが採用されなかった以上,控訴審裁判所においても,申立てが採用されないであろうことを予想するYの心理過程は,不相当なものとはいえず,あえて申立てを行うことは,期待し得ない

ウ 上記④について

Yは第一審の裁判において,筆跡鑑定の申立てをしている。そのため,筆跡鑑定の申立てを行うべき旨を釈明することは,Xが予期しない新たな証拠調べを促すことにはならず,Xに対する不意打ちとはならない。また,Yは第一審の裁判において,筆跡鑑定の申立てをすることで,作成名義の真正を補強する証拠を提出しようとしていた。その機会を第一審裁判所が排斥したにもかかわらず,控訴審裁判所が筆跡鑑定の申立てを行う契機をYに与えることなく,作成名義の真正を否定することは,Yに対する不意打ち的な認定となるといえる。

エ よって,控訴審裁判所は,Yに対して,筆跡鑑定の申立てを行うべき旨を釈明する義務があった

(3) それにもかかわらず,控訴審裁判所は,その釈明を行うことなく,判決を下した。したがって,控訴審裁判所に釈明義務違反が認められる

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