【事例演習 刑事訴訟法】23:伝聞法則①

事例演習 刑事訴訟法
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1 本件は,被告人XのVを客体とした強姦致死事件であり,Xの犯人性が争点となっている。よって,検察官は,犯人性を推認させる証拠を提出すべきである。そして,検察官は,Wの供述について,立証趣旨を「被害前のVの言動状況」,要証事実をWの証言の存在と記載内容自体として,証人尋問を請求している。

しかし,「被害前のVの言動状況」を示しても,犯人性を推認する証拠とはなり得ない。検察官の立証趣旨をそのまま受け取れば,Wの供述は関連性のない証拠と判断するほかない。そこで,検察官が本件Wの供述を用いる場合に,実質的にいかなる事実が要証事実に当たるかを検討する。

(1) 強姦致死事件において,犯人性を推認する事実として被害者の証言を用いる場合には,以前の被告人の行動から,本件の犯行を推認することができる。本件でも,「Xが犯行の以前からVに対していやらしいことをしていた」を立証した上で,Xが犯行時にも「いやらしいことをした」こと,すなわち,本件の犯行を行ったことを推認することができる2

(2) よって,本件においては,「Xが犯行の以前からVに対していやらしいことをしていた」事実が要証事実に当たると考えるべきである。

2 本件において,要証事実が被告人の犯人性を推認する事実であり,それは刑罰権の存否を画する事実(刑事訴訟法335条)といえる。それならば,厳格な証明(刑事訴訟法317条)が要求されるため,適式な証拠調べを経た証拠能力ある証拠によって認定されなければならない。それでは,Wの供述は,証拠能力を備えているといえるか

3 Wの供述は,公判廷外のVの供述を内容とするものであるため,伝聞証拠(刑事訴訟法320条)に当たり,証拠能力が否定されるのではないか伝聞証拠の意義が問題となる。

(1) 供述証拠は,知覚・記憶・表現・叙述という過程を経るものである。そして,その各過程には誤りが介在する危険性があるため,反対尋問等の方法により,その真実性を確認する必要がある。しかし,公判廷外における供述を内容とするものは,その真実性を確認することができないため,誤りが介在する危険性が排除できず,証拠能力が否定される。

そこで,伝聞証拠とは,公判廷外でなされた原供述を内容とし,その内容の真実性を証明するために用いられるものをいう。

(2)ア Wの供述は,公判廷外でなされたVの供述を内容としている

イ 検察官は,Wの証言の存在と発言内容自体を立証することを主張しているため,内容の真実性を証明するために用いられていないとも思える。

しかし,WがVから聞いた言動の存在と発言内容それ自体によって,犯人性を立証することはできない。本件では,上記のとおり,「Xが犯行の以前からVに対していやらしいことをしていた」ことにより,犯行当時のXの動機を推認するものであり,Wの供述内容の真実性が問題となる

(3) よって,Wの供述は,伝聞証拠に当たる。そのため,原則として,証拠能力が否定される。そして,例外的に,X及びXの弁護人の同意(刑事訴訟法326条)がある場合,321条〜324条の伝聞例外に当たる事情がある場合にのみ,証拠能力が肯定される。

4 XとXの弁護人がWの供述を証拠として用いることに同意していないため,Wの供述を証拠として用いるためには,伝聞例外の要件をみたす必要がある。

(1) 本件のWの供述は,Vが発言した内容をWが聞き,それをWが公判廷内で供述するものであるため,324条2項が準用する321条1項3号の要件をみたす必要がある。

(2)ア Vは本件事件により殺害されているため,「供述者が死亡」しており,「供述することができ」ないといえる。

イ よって,Wの供述が「犯罪事実の存否の証明に欠くことができないもの」であり,「特に信用すべき情況の下になされた」といえる場合には,伝聞例外の要件をみたし,証拠能力が肯定される

(3) 上記要件をみたす場合にのみ,Wの供述の証拠能力が認められる

5 裁判所の採るべき措置について

(1) 裁判所は,上記要件がみたされるかをその場で判断できる場合には,その判断に従い,異議申立てを棄却して(刑事訴訟規則205条の5),証人尋問を続行する,もしくは,異議申立てを認容して(刑事訴訟規則205条の6第2項),証人尋問を終了し,その証拠を排除するべきである。

(2) 裁判所が,上記要件がみたされるかをその場で判断できない場合には,証人尋問を直ちに中断して,その要件の該当性の審理を行うのは妥当ではない。そこで,裁判所は,弁護人の異議を棄却した上で,証人尋問を続行すべきである。そして,上記要件がみたされないことが判明した段階において,Wの証言を証拠排除すべきである。

Footnotes

  1. この話を後に書けば,心理状態供述の話を出せるかもしれません。
  2. この話を後に書けば,心理状態供述の話を出せるかもしれません。

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