【Law Practice 民事訴訟法】20:権利自白

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1 XはYに対し,国家賠償請求(国家賠償法1条1項)を行っている。Xは,請求を基礎付ける事実として,自衛隊機のパイロットに「過失」があったことを主張している。これに対して,Yは自衛隊のパイロットに「過失」があったことを包括的一般的に認めている。

2 Yが「過失」について認めた陳述につき,「裁判上の自白」(民事訴訟法179条)が成立するか

(1) 「自白」とは,期日において,相手方の主張する自己に不利益な事実を認めて争わない旨の当事者の弁論としての陳述をいう。そして,自白の拘束力が生じる「事実」の範囲は,間接事実や補助事実が証拠と同様の機能を有しており,それに自白の拘束力を及ぼすと自由心証主義(民事訴訟法247条)への制約を加えてしまうことから,主要事実に限られると考えるべきである。

(2) 「過失」それ自体は事実ではなく,法的な評価にすぎない。また,「過失」それ自体を直接証拠により立証することはできない。よって,「過失」は主要事実に当たらない。したがって,Yの「過失」について認めた陳述には,「裁判上の自白」は成立しない

3 そうだとしても,Yは「過失」について,認めている以上,拘束力を認めるべきではないか請求の当否の判断の前提をなす先決的な権利関係や,法的評価概念についての自白を権利自白という。そして,Yは「過失」という法的評価概念について認めており,権利自白をしているといえる。それでは,権利自白に,自白としての拘束力(裁判所の判断を拘束する効力など)は認められるか

(1) 法の解釈や適用は裁判所の専権事項である。そのため,権利自白について自白としての拘束力を認めると,裁判所の専権を妨げることとなり,妥当ではない。

そこで,権利自白には,原則として,自白としての拘束力は認められないと考える。

もっとも,当事者の意思にかんがみて,具体的事実の自白と評価できる場合には,自白の拘束力が認められると考えるべきである。

(2) Yが「過失」が認められることを認めたことは,権利自白に当たるため,原則としては自白としての拘束力は認められない。

もっとも,Yは,衝突場所や,衝突時刻などの細部については,争っているものの,「過失」が認められることを包括的一般的に認めている。これは,Xが主張する「過失」を基礎付ける具体的事実について,すべて認める趣旨である。それならば,具体的事実についての自白がなされたものと評価できるため,その部分について認めたことに対して,自白としての拘束力が認められる

4 以上より,裁判所は証拠調べをすることなく,Yの「過失」を認定することができる


【別の案】結局言っていることは同じのような気がするのですが,この構成はありですか?

1 XはYに対し,国家賠償請求(国家賠償法1条1項)を行っている。Xは,請求を基礎付ける事実として,自衛隊機のパイロットに「過失」があったことを主張している。これに対して,Yは自衛隊のパイロットに「過失」があったことを包括的一般的に認めている。

2 Yが「過失」について認めた陳述につき,「事実に関する裁判上の自白」(民事訴訟法179条)が成立したといえるか

(1) 「自白」とは,期日において,相手方の主張する自己に不利益な事実を認めて争わない旨の当事者の弁論としての陳述をいう。そして,自白の拘束力が生じる「事実」の範囲は,間接事実や補助事実が証拠と同様の機能を有しており,それに自白の拘束力を及ぼすと自由心証主義(民事訴訟法247条)への制約を加えてしまうことから,主要事実に限られると考えるべきである。

(2)ア 「過失」それ自体は事実ではなく,法的な評価にすぎない。また,「過失」それ自体を直接証拠により立証することはできない。よって,「過失」は主要事実に当たらない。したがって,Yの「過失」について認めた陳述には,「事実に関する裁判上の自白」は成立しないとも思える

イ もっとも,Yは,衝突場所や,衝突時刻などの細部については,争っているものの,「過失」が認められることを包括的一般的に認めている。これは,Xが主張する「過失」を基礎付ける具体的事実について,すべて認める趣旨である。それならば,具体的な「事実についての自白」と評価できるため,「事実に関する裁判上の自白」として,拘束力が認められる

3 以上より,裁判所は証拠調べをすることなく,Yの「過失」を認定することができる

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