【事例演習 刑事訴訟法】27:伝聞法則⑤

事例演習 刑事訴訟法
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第1 設問(1)について

1 検察官は,甲の公判廷供述の証明力を減殺させるための証拠として,この供述と矛盾する内容の乙の供述が録取された書面の取調べ請求をしている。乙の供述録取書は,「証明力を争うため」の「証拠」(刑事訴訟法328条)として用いることが認められるか。ここで,「証拠」として用いることができるのは,同一人の自己矛盾供述に限られるのか,別人の矛盾供述であっても許容されるのかが問題となる。

(1) 刑事訴訟法328条の適用範囲を別人にまで広げた場合には,判断の誤りを生じさせるため本来排除されるべき伝聞証拠(刑事訴訟法320条)が,無限定に証拠として採用され,それが裁判官の心証形成に影響を与える可能性がある。その場合には,伝聞法則の趣旨を没却させることになりかねず,適用範囲は厳格に捉えるべきである。

また,刑事訴訟法328条の趣旨は,同一人の自己矛盾供述が存在したことを示すことができれば,供述内容の真実性にかかわらず,供述の信用性を減殺することができることを許容する点にある。1

そこで,「証拠」として用いることができるのは,同一人の自己矛盾供述に限られると考えるべきである。

(2) 本件において,検察官は甲の供述の「証明力を争うため」に,別人である乙に関する証拠を用いようとしている。よって,乙の供述録取書は,「証明力を争うため」の「証拠」として用いることが認められない

2 以上より,裁判所は,乙の供述録取書を証拠として採用することができない

第2 設問(2)前段について

1 検察官は,甲の公判廷供述の「証明力を争うため」に,甲の捜査段階における供述を記載した捜査報告書を用いようとしている。これは認められるか

(1) 本件捜査報告書は,同一人である甲の矛盾供述の存在によって,甲の公判廷外供述の「証明力」を減殺するものであるため,「証拠」として用いることができるとも思える。

(2) しかし,本件捜査報告書には,甲の署名・押印がないため,甲が作成者たる司法警察員Lに対して供述をした過程における伝聞性が排除されず,「証拠」として用いることができないのではないか

ア 供述を録取した書面の作成課程としては,供述者が供述する課程(第一供述過程)と,その供述を書面の作成者が録取する過程(第二供述過程)とが存在している。刑事訴訟法328条によって伝聞性が解消されるのは,第一供述過程のみにすぎず,第二供述過程,すなわち,書面作成者が供述者の供述内容を正しく記載したかという問題が生じる過程,における正確性の担保が存在しない

そこで,328条の「証拠」として用いるためには,第二供述過程の伝聞性を解消すべき事情が必要と考える。

イ 本件では,第二供述過程の伝聞性を解消すべき事情である甲の署名・押印が存在していない。そのため,328条にいう「証拠」として,本件捜査報告書を用いることは認められない

2 以上より,裁判所は,Lが作成した捜査報告書を証拠として採用することができない

第3 設問(3)について

1 検察官は,甲の捜査段階における供述を録音したICレコーダーを用いようとしているが,これは認められるか

(1) 本件捜査報告書は,同一人である甲の矛盾供述の存在によって,甲の公判廷外供述の「証明力」を減殺するものである。よって,第一供述過程における伝聞性は解消されている

(2) そして,甲が司法警察員Mに対して供述を行った過程は,ICレコーダーに録音されている。この場合,知覚や記憶,叙述,表現といった供述証拠に誤りが介在するおそれのある過程が,人が関わらない形で機械的に行われている。それならば,第二供述過程は機械的正確性が担保されており,この過程について,供述としての性質はなく,伝聞証拠として証拠能力を排斥する必要はない。

(3) よって,甲の供述が録音された過程につき,伝聞証拠として排斥すべき伝聞性が存在しないため,「証拠」(刑事訴訟法328条)として用いることが認められる

2 以上より,裁判所は,Mが録音したICレコーダーを証拠として採用することができる

第4 設問(2)後段について

1 検察官は,甲が公判廷で証言した後に作成された,甲の矛盾供述を録取した書面を用いようとしているが,これは認められるか証明力を争う対象の供述がなされた時点以降に作成された証拠を328条の「証拠」として用いることができるかが問題となる。

(1) 公判廷での供述がなされた後に取調べ等がなされた場合には,その公判廷供述の信用性を失わせることを目的として,何らかの偏見の元に供述の採取がなされるおそれが否めない。仮にそのような証拠の採用を認めるのであれば,そのような供述の採取を誘発する危険性もある。また,刑事訴訟法の原則は,公判中心主義にあり,取調べの採取は,あくまでも公判の準備のためのものである。それならば,公判廷外での供述を公判廷における証拠を弾劾するために用いることは,基本的には,妥当ではない

そこで,刑事訴訟法328条の「証拠」として用いることができるのは,証明力減殺の対象となる証言以前のものに限定すべきである。

(2) 本件供述録取書は,証明力を争う対象の供述がなされた時点以降に作成されたものであるため,刑事訴訟法328条の「証拠」として用いることは認められない

2 以上より,裁判所は,本件供述録取書を証拠として採用することができない

Footnotes

  1. 刑事訴訟法328条は,その意味で,内容の真実性が問題とならない以上は,非伝聞として証拠能力が認められることを注意的に示した規定といえる。という話も最初は書いていたのですが,これは消極的理由づけに過ぎないと考えたため,今回は削りました。

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