【Law Practice 民事訴訟法】基本問題26:文書提出義務①:自己使用文書

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1 本件訴訟において,Xは,Yが所持する貸出稟議書について,文書提出命令を申し立てている(民事訴訟法221,220条4号)。

これは,Yについて,民事訴訟法220条4号の一般提出義務の存在を理由とする申立てである。貸出稟議書が通常外部に公開されるものでないことにかんがみると,Xが貸出稟議書を申立命令以外の方法で入手することは通常は不可能であるため,「文書提出命令の申立てによって行う必要がある」場合といえる(民事訴訟法221条2項)。

2 これに対して,Yは,本件貸出稟議書は「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」(以下「自己利用文書」という。民事訴訟法220条4号ニ)に該当するため,Yは提出義務を負わない旨を主張している。それでは,本件貸出稟議書が自己利用文書に当たるか自己利用文書に当たるか否かの判断基準が問題となる。

(1) 民事訴訟法220条4号ニよって,自己利用文書が文書提出義務の対象から除外されている趣旨は,自己の利用に供する目的で作成された文書にまで提出義務を負わせることは,個人や団体の活動に萎縮的効果を及ぼすおそれがあるため,それを回避しつつ,訴訟上の真実発見の要請を実現する点にある。

そこで,①専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者への開示が予定されていないこと,②所持者に看過しがたい不利益が生じるおそれがあること,③自己利用文書の該当性を否定する特段の事情がないこと,をすべてみたす場合には自己利用文書として,文書提出義務の対象から除外されると考える。

(2)ア 外部非開示性

銀行の貸出稟議書は,特定の者の決済の限度を超える規模・内容の融資案件について,権限を持つ者の決済を求めるために作成される文書である。融資案件についての意思形成を円滑かつ適切に行うために作成される以上は,決裁権限を有するものの間で利用することを超えた目的は有しておらず,当然,銀行の外部に提示することが予定されていない

また,法令によって作成が義務付けられた文書ではないため,公的性質を有する文書でなく,その意味でも公開は予定されていないといえる。

よって,①はみたされる

イ 看過できない不利益性

(ア) 開示が与える顕在的影響

そして,貸出稟議書には,融資の相手方に関する信用状況や評価担当者の意見などが,外面を気にすることがない,いわば率直な形で記載される。信用に関する情報が公開された場合には,本来は公開されるはずのなかった,銀行の融資に関する判断の過程が明らかとなり信用や評判に影響を与え,将来の取引・営業が何らかの形で制約されるおそれがある。

また,銀行員個人の名誉を傷つける事態が生じる可能性がある。特に,信用や評判,名誉は一度侵害されれば,回復が極めて困難であるため,看過できない不利益が生じる可能性があるといえる。

(イ) 開示による内部的意思形成の過程への潜在的影響

また,融資の相手方に対して,融資担当者や決裁権者がどのような主観を抱いていたのかが明らかとなり,外部に公開されることをおそれるあまり,忌憚なく意見を述べることが阻害される可能性がある2

その場合には,銀行内部の意思形成過程に対して不当な制約が加えられるものであり,金銭的評価が困難な看過しがたい不利益を生じるおそれがあるといえる。

よって,②はみたされる

ウ 特段の事情の有無

本件においては貸出稟議書の自己利用文書の該当性を否定する特段の事情はない。よって,③はみたされる

(3) したがって,本件貸出稟議書は自己利用文書に当たる

3 以上より,本件貸出稟議書は,Yの主張どおり,民事訴訟法220条4号ニの自己利用文書に該当し,Yは文書提出義務を負わないため,裁判所は本件貸出稟議書について,文書提出命令を発令することはできない

Footnotes

  1. 「銀行内部での意思形成を円滑かつ適切に行うために作成した貸出稟議書が,かえって内部での意思形成を阻害するものとして機能し,経済的利益を害するおそれがある」という点で逆効果性を有していることを指摘したかったのですが,表現力が足りず断念しました。
  2. 「銀行内部での意思形成を円滑かつ適切に行うために作成した貸出稟議書が,かえって内部での意思形成を阻害するものとして機能し,経済的利益を害するおそれがある」という点で逆効果性を有していることを指摘したかったのですが,表現力が足りず断念しました。

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