【Law Practice 民事訴訟法】基本問題27:文書提出義務②:職業の秘密

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1 Xは,YがAについて作成した自己査定文書に関して,民事訴訟法220条4号に基づいて文書提出命令の申立てを行っている(民事訴訟法221条1項)。ここで,本件文書に文書提出義務が認められるかを検討する。

なお,本件文書をXが文書提出命令以外の方法で入手することは極めて困難であるため,「文書提出命令の申立てによってする必要がある場合」(民事訴訟法220条2項)といえ,申立ての必要性をみたしている。

2 本件文書が「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」(自己利用文書, 民事訴訟法220条4号ニ)に当たるか

(1) 自己利用文書が文書提出義務の対象外とされたのは,自己の利用のみを目的として作成された文書に提出義務をみとめると,活動の自由が著しく侵害されるからである。

そこで,自己利用文書該当性は,①外部非開示性,②開示による不利益性,③特段の事情の有無,によって判断すべきである。

(2) 本件文書は,査定結果が正確であったかどうかを金融庁が事後的に検証する目的で作成される文書である。それならば,外部に開示されることが作成の前提となっている。

(3) よって,本件文書は自己利用文書に当たらない

3 それでは,本件文書は,「職業の秘密に関する事項」(民事訴訟法220条4号ハ, 197条1項3号)として,文書提出義務の除外事由に当たるか

(1) 「職業の秘密」とは,その秘密が公開されると,その職業に深刻な影響を与え,以後の遂行が困難になるものをいう。そして,裁判上の証拠採用の必要性にかんがみて,これに該当する場合であっても,すべての場合に提出義務が否定されるのではなく,保護に値する秘密のみが提出義務を免れると考える。

そして,保護に値するか否かは,秘密の公表によって生じる不利益と,秘密を保持することによる真実発見,裁判上の公正に関する不利益との比較衡量によって決すべきである。

(2) 本件文書は,性質上,(a)公表することを前提として作成された財務情報, (b)金融機関が守秘義務を負うことを前提として顧客から提供された非公開の顧客の財務情報, (c)外部機関から得た顧客の信用に関する情報, (d)顧客の財務情報等を基礎として金融機関自身が行った分析評価情報に分けられる。

ア (a)について

(a)の文書は公表が前提として作成されている以上は,公表によって職業遂行の上での影響は生じない。よって,「職業の秘密」には当たらない

イ (b)について

(ア) 顧客たるAの財務状況を公開する場合,Aにとって深刻な経済的打撃を与えるおそれがあるため,Yは公開によって,Aからの情報の機密性保持に関する信頼を失うことが予想される。そのため,職業の遂行に深刻な影響を与えうる。また,守秘義務を負う事柄である場合には,文書提出によってこの義務の違反となりうるため,公開によって職業の遂行が困難となる。よって,「職業の秘密」に当たる

(イ) もっとも,Aの財務情報については,既に民事再生手続が開始している以上は,債権者らに開示されている。そのため,秘密の公表によって秘密主体であるAに生じる不利益は極めて小さいと考えられる。

また,本件文書のうち(b)の部分は,Aから提供された財務情報である以上,経営破綻をうかがわせる情報も含有している可能性が高いため,本件訴訟との関係では,非常に証拠価値は高く証拠として採用する必要性が認められる。

よって,この証拠に価値が優越する証拠がない限りは,本件文書のうち(b)の部分は,「保護に値する秘密」とはいえない

ウ (c)について

(ア) 外部機関から得た情報は,その外部機関との関係で秘密の保護が義務付けられており,それを公開すると,以後外部機関の助力を得られなくなり以後の職業の遂行が困難になるおそれがある。よって,「職業の秘密」に当たる

(イ) そして,外部機関のノウハウ等が明らかになることによる不利益は大きく,他方,外部機関の作成した情報以外の部分で目的を達成することができると思われる以上,あえてこの部分を採用すべき必要性は大きいとはいいがたい。よって,「保護に値する秘密」といえる

エ (d)について

(ア) YのAに対する分析評価情報は,Aの財務情報が記載されており,YのAに対する評価も含まれているため,開示それ自体と,開示内容の把握により,AのYへの信頼を損なうことが予想される。そのため,職業の遂行が困難になるといえ,「職業の秘密」に当たる

(イ) しかし,上記のとおり,Aの財務状況については既に民事再生手続上で開示されているため,秘密保護主体であるAが開示によって受ける不利益は小さい。本件訴訟では,YがAの経営破綻の可能性を予見していたか,Aの経営状態についてどのように把握していたか,が争点となる。そのため,YのAに対する評価が直接的に確認できる(d)の部分の証拠価値は極めて大きい

よって,この証拠に価値が優越する証拠がない限りは,本件文書のうち(d)の部分は,「保護に値する秘密」とはいえない

(3) したがって,本件文書のうち,(b)(d)の部分は上記事情をみたせば,「保護に値する秘密」といえず,文書提出義務の除外事由に当たらない

4 以上より,裁判所は本件文書のうち,(b)(d)の部分に関しては,他に証拠価値が優越する証拠がない限りは,文書提出義務がみとめられ,文書提出命令を発令することができる

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