【Law Practice 民事訴訟法】基本問題28:文書提出義務③:公務秘密文書

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1 Xは地方公共団体を被告として,保護変更決定の取消しの訴えを提起している(行政事件訴訟法3条2項)。Xは,処分の違法性(行政事件訴訟法30条)を基礎付けるため,国が所持している全国消費実態調査に関連する文書の提出命令を申し立てた(民事訴訟法221条1項, 220条4号)。

なお,本件文書は提出命令の申立て以外の方法で入手することは著しく困難であるため,文書提出命令によって申し立てる必要性(民事訴訟法221条2項)はみたされる。

2 これに対して,被告たる地方公共団体は,本件文書が民事訴訟法220条4号ロ所定の文書であることを理由として,文書提出義務がないことを主張することが考えられる。それでは,本件文書はこれに当たるか

(1) 民事訴訟法220条4号ロで文書提出義務の除外対象となる要件としては,①「公務員の職務上の秘密に関する文書」であること②「提出により公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」こと,が挙げられる。

そして,公務員の守秘義務と訴訟上の真実発見との調和の見地から,「職務上の秘密」といえるためには,公務員が職務上知り得た秘密でかつ,秘密として実質的に保護するに値するものである必要があると考える。

(2)ア 要件該当性の判断の考慮に用いるべき事情

本件文書は,国民生活の実態を調査することを目的とするものである。本件調査は,国民個人に本来は秘匿されるべき家庭内の情報に関して,個人を識別する情報と結びつく部分の秘匿性を保護する約束のもとで任意的に開示することを求め,その情報を対象とするものであり,本件文書は,その調査の結果として作成されたものである。

その性質上,調査結果として顕在化する数字以外の,個人の識別につながる部分の開示は想定されていない。この部分の開示を許してしまえば,それ自体によって,国民の秘密保護への信頼を失い,又は,訴訟の経過を通じてその情報を知った者が秘密保護義務を負わないことによって,秘密流出への不安にさらされることになる。

それならば,本件調査に応じなくなる国民がそれ以降に増加することが容易に予想できる。そのため,以降の調査を円滑に行えなくなるおそれが大きい

イ ①の要件について

本件文書は,都道府県知事等の任命や国の委託を受けた調査員が行い,これを基礎資料として作成されるものであるため,公務員が職務上知り得た秘密といえる。

そして,これが公表される場合には,上記のとおり公の信頼喪失につながり,以後の職務遂行を困難とするため,秘密として実質的に保護するに値する

よって,本件文書は,「公務員の職務上の秘密に関する文書」といえる。

ウ ②の要件について

また,上記のとおり,本件文書の公開は,公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれを生じる

(3) したがって,本件文書は,民事訴訟法220条4号ロ所定の文書に当たる

3 以上より,裁判所は本件申立てを認めることはできない

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