【Law Practice 民事訴訟法】基本問題31:争点効

Law Practice 民事訴訟法
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1 第2訴訟においてXの詐欺取消しの主張(民法96条1項)は排斥されている。このことは,第1訴訟に影響を生じさせるか。既判力(民事訴訟法114条1項)は,「主文に包含するもの」に限り生じる生じるとされるが,その文言からは必ずしも明確とはいえない。そこで,既判力が生じる客観的範囲が問題となる。

(1) 既判力が正当化される根拠は,手続保障を充足することによって自己責任が問えることにある。そして,この手続保障は,現に当事者が判決による解決を求めた訴訟物の存否に付与すれば紛争解決の観点からは十分である。また,審理の簡易化,及び弾力化の観点からは,既判力の生じる範囲は限定的に捉えるべきである。

そこで,既判力は,訴訟物たる権利関係についてのみ生じると考える。

(2) 第2訴訟においては,第2訴訟の訴訟物である本件建物明渡請求権の存在についてのみ既判力が生じる。すなわち,第2訴訟においてXの詐欺取消しの主張は排斥されているものの,詐欺取消しの主張は,訴訟物の存否の判断を示す理由として判断されたにすぎず,詐欺取消しの認否につき,既判力が生じるわけではない

(3) したがって,第2訴訟におけるXの詐欺取消しの主張は,第1訴訟には既判力による影響を生じさせない

2 そうだとしても,裁判所の判断が示されたにもかかわらず,それが後訴において何らの拘束力も生じさせないとするのは,前訴の判断の意義を疑わせるし,紛争解決の一回性の観点からも妥当でないと思える。

そこで,前訴で当事者が主要な争点として争い,かつ,裁判所がそれを審理して下した争点についての判断に対して一定の通用力(いわゆる争点効)が生じると考えることはできないか

(1) 実定法上の根拠が存在しないのにもかかわらず,不明確な要件によって拘束力を認めることは,当事者への不意打ちとなりかねず,妥当ではない。そこで,争点効は否定すべきである。

もっとも,上記のように,紛争解決機能を維持する必要性も否めない。そのため,後訴請求が実質的に紛争の蒸し返しに当たり,信義に反するといえるような事情がある場合には,信義則(民事訴訟法2条)により,後訴主張が遮断されると考える。

(2) 本問では,前訴としての第2訴訟と,後訴としての第1訴訟とが,双方ともにXによる詐欺取消しの主張を中心として争っている。そして,第1訴訟における詐欺取消しの主張が第2訴訟の確定判決確定後に行われたわけではなく,Xに紛争を蒸し返す意図はない

しかし,第2訴訟における確定された判断が実質的に覆されることは,第2訴訟で詐欺取消しが認められないとの判断を得たYの信頼を著しく害する。この意味で,紛争の蒸し返しと同視できる。そのため,紛争解決の維持機能を働かせる必要が高いといえる。

また,第2訴訟において,両当事者は詐欺取消しが認められるかという点を中心的に争っていたと思われるため,第2訴訟の確定判決がなされた段階で,当事者への手続保障は及んでおり,その段階における判断により当事者を拘束しても手続保障上の不利益は生じない

よって,第1訴訟における詐欺取消しの主張は,信義則によって遮断される[efn_font]ここの判断は正直かなり微妙だと思います。最判昭和51年9月30日民集30-8-799の判示に従えば,信義則遮断を肯定すべきかと考えたのですが,信義則判断を矛盾挙動禁止の原則と権利失効の原則とに類型化して判断をする見解に立てば,それらの原則からは信義則が適用されるのか怪しいような感覚があります。[/efn_font]。

(3) 以上より,第2訴訟でのXの詐欺取消しの主張は,第1訴訟では信義則によって遮断される。そのため,第1訴訟において,本件建物がYの所有であることに対して,詐欺取消し以外の主張を何ら行っていない場合には,実質的には本件建物の所有権がYに帰属することが確定しているといえる。したがって,そのような場合には,Yの本件主張は認められる


【争点効肯定説から】

2 しかし,第2訴訟における確定された判断が実質的に覆されることは,第2訴訟で詐欺取消しが認められないとの判断を得たYの信頼を著しく害する。この意味で,紛争の蒸し返しと同視できる。そのため,紛争解決の維持機能を働かせる必要が高いといえる。

この場合に,裁判所の判断が示されたにもかかわらず,それが後訴において何らの拘束力も生じさせないとするのは,前訴の判断の意義を疑わせるし,紛争解決の一回性の観点からも妥当でないと思える。そこで,前訴で当事者が主要な争点として争い,かつ,裁判所がそれを審理して下した争点についての判断に対して一定の通用力(いわゆる争点効)が生じると考えることはできないか

(1) 既判力の正当化根拠は,手続保障に基づく自己責任が充足されることにある。そして,既判力が生じる範囲が「主文に包含するもの」に限定される趣旨は,判決理由中の判断は,主文に記載の訴訟物たる権利関係の存否を判断する手段に過ぎず,必ずしも手続保障が及ばないことにある。

しかし,当事者が前訴において,主要な争点として争い,それに対して裁判所が判断をした場合には,後訴の係争利益と前訴の係争利益が共通する部分については,手続保障が充足されていたといえ,通用力を及ぼしたとしても既判力の趣旨に反しない1

そこで,上記の範囲においては,争点効は認められると考える。

(2) 本問では,前訴としての第2訴訟と,後訴としての第1訴訟とが,双方ともにXによる詐欺取消しの主張を主要な争点として争っていた

また,上記のとおり,第2訴訟において,裁判所は,Xによる詐欺取消しが認められないとの判断を下している

(3) 以上より,第2訴訟でのXの詐欺取消しの主張は,第1訴訟では争点効によって遮断される

3 そのため,以上より,Yの本件主張は認められる

Footnotes

  1. 既判力を訴訟物たる権利関係に限定する趣旨として,審理の弾力化・簡易化も挙げられます。しかし,この点を争点効肯定説が本当に克服できているのかはやや疑問です。LQ441頁は,当事者が実際に争った場合に限られるため問題ないとしていますね。

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