1 前訴において,裁判所はXB間において,買戻契約が成立したという事実は認められない旨を認定している。この判断が後訴に拘束力を生じないか。既判力(民事訴訟法114条1項)の客観的範囲が問題となる。
(1) 既判力の正当化根拠は,手続保障充足により自己責任が認められることにある。そして,その手続保障は,現に当事者が判決による解決を求めた訴訟物について付与すれば足り,審理の簡易化・弾力化の観点からも訴訟物についての判断に限定するべきである。
そこで,既判力は,訴訟物たる権利関係についてのみ及ぶと考える。
(2) 前訴の訴訟物は,本件土地の所有権移転登記請求権であり,前訴では,その不存在についてのみ既判力が生じている。そのため,買戻契約の不成立に関しては既判力が生じず,既判力という意味では,後訴への拘束力は生じない。
2 そうだとしても,Xは後訴において,前訴で不存在が認定された買戻契約の存在を理由として請求を提起しているため,何らかの拘束力を及ぼし,この主張を遮断すべきではないか。
(1) この点について,前訴で当事者が主要な争点として争い,それに対し裁判所が審理を下した判断した場合には,その判断に拘束力を認める見解がある。しかし,そのような拘束力を及ぼす実定法の根拠はなく,要件も未だ不明確であるため,認めるべきではない。
もっとも,訴訟の紛争解決機能は維持すべきであるため,後訴請求が前訴請求の蒸し返しといえるような場合には,信義則(民事訴訟法2条)により,後訴での主張を遮断すべきと考える。そして,その判断は,①後訴請求が前訴請求の蒸し返しといえるか,②前訴において十分な手続保障があったか,③後訴での請求を認めることが相当でないか,という観点から行うべきである。
(2)ア 前訴請求において,XB間の買戻契約の存在は認められないとの認定がされたにもかかわらず,Xは買戻契約の存在を理由として後訴請求を行っている。このことは,前訴請求における判決による紛争解決を信頼したYを害するものであり,前訴請求を蒸し返すものと評価せざるを得ない。
イ 前訴請求の段階で,XB間の買戻契約の存在が認められるかを主要な争点として審理が行われていた以上は,前訴において十分な手続保障が及んでいたといえ,さらに,再度後訴において主張を許すべき手続保障の欠缺は本件では認められない。
ウ 後訴請求は,買戻処分から20年が経過した時点で提起されたものである。前訴が買戻処分が行われた後,どの程度の期間が経過した段階でなされたのかが明確ではないため,前訴との関係で権利の上に眠っていたと直ちに評価することは困難である。
仮に,前訴判決確定時から後訴請求の提起までの期間が長期間離隔していたのであれば,Yに対して,紛争解決への信頼を生じるし,X自身は本件土地について争えたのに争わなかったという懈怠が認められる。よって,そのような場合には,後訴での請求を認めることは相当ではない。
また,前訴判決確定後の時間的離隔が存在しない場合であっても,Xは本件土地について,前訴の上訴により争うべきであったといえ,後訴での請求を認めることは相当ではない。
(3) したがって,信義則により,後訴での主張を遮断すべきである。
3 以上より,本件のような後訴提起は,前訴判決との関係では許されるものではなく,買戻契約の存在に関する主張は,本案審理においては遮断されると考えられる。
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