【事例演習 刑事訴訟法】32:一事不再理効

事例演習 刑事訴訟法
この記事は約3分で読めます。

1 被告人Xについて,前訴において,5件の窃盗罪における判決が確定した。そして,前訴確定前に,3件の窃盗を犯していたことにつき,検察官は,常習特殊窃盗罪として起訴した(この手続を「後訴」という)。

2 弁護人の主張にあるとおり,前訴における窃盗罪と,後訴における常習特殊窃盗罪とは,実体法上の一罪の関係にあるため,前訴による一事不再理効が後訴に及び,裁判所は無罪判決を下さなければならない(刑事訴訟法337条1号)のではないか,について検討する。ここで,一事不再理効の生じる客観的範囲が問題となる。

(1) 一事不再理効とは,同一の刑事事件について,審判が行われた以上は,再度の起訴を許さない効力をいう(憲法39条前段後半,後段,刑事訴訟法337条1号)。そして,一事不再理効の趣旨は,被告人が一度訴追処罰の負担を課せられたのであれば,同一の犯罪について再度訴追処罰の危険にさらされることを禁じる点にある。

そして,審判対象たる訴因は,「公訴事実の同一性」(刑事訴訟法312条1項)の範囲内で変更可能であるため,その範囲内において,被告人は訴追処罰の危険にさらされていたといえる。

そこで,一事不再理効は,「公訴事実の同一性」が認められる範囲内で生じると考える。

(2) そして,1つの刑罰権の対象となる事実に対しては,1つの刑事手続で1度だけ処罰すれば足りる。しかし,1つの刑罰権の対象となる事実について,別訴が併存し,2つ以上の有罪判決が重複して存在する危険は,二重処罰を生じさせるため,許されない

そこで,「公訴事実の同一性」とは,新旧両訴因で1度の刑事手続で1度のみ処罰すれば足りる関係にあること,あるいは,別訴において有罪判決が併存すると二重処罰の実質を生じさせるような関係にあることをいう。

(3) それでは,前訴における窃盗罪と,後訴における常習特殊窃盗罪とは,「公訴事実の同一性」が認められる関係にあるか

ア 前提として,裁判所は,「公訴事実の同一性」の判断を行う基礎として何を考慮することができるかが問題となりうるが,訴因外の事情を実質的に考慮した上でこの判断を行えるとするのではなく,訴因内に設定された事情を基礎としてこの判断を行わなくてはならないと考える。

そして,本件においては,後訴において,常習特殊窃盗罪という訴因が設定されている以上は,常習性という観点を判断の基礎に取り込むことができる

イ 上記のように,常習性の発露を検討に取り込むことができる以上は,裁判所は,前訴で起訴された被疑事実と,後訴で起訴された被疑事実とが,常習性の発露という観点で関連性を有しているかを判断すべきである。

そして,裁判所が両者がともに常習性の発露として行われたものであるとの心証を抱いたのであれば,前訴と後訴とは,いずれも実質的に常習特殊窃盗罪の一部をなす事実を構成し,1度の刑事手続で1度のみ処罰すれば足りる関係にあるといえる。また,実体法上の一罪関係にある以上,別訴において有罪判決が併存することは,一罪について二度処罰することに他ならず,まさに二重処罰の実質を生じる

ウ よって,上記場合には,前訴被疑事実と後訴被疑事実とは,「公訴事実の同一性」が認められる関係にある

(4) 以上より,裁判所が前訴被疑事実と後訴被疑事実とがともに常習性の発露として行われたとの心証を抱いた場合には裁判所は,前訴確定判決により生じた,一事不再理効により,後訴においては,免訴判決を下さなければならずそれ以外の場合には裁判所は,後訴被疑事実について通常の形で審判を行えば足りる

コメント

タイトルとURLをコピーしました