【Law Practice 民事訴訟法】基本問題34:既判力の時的限界

Law Practice 民事訴訟法
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1 XY間の前訴においては,「主文に包含するもの」,すなわち,訴訟物たる権利関係である,①Yの本件土地所有権の存在,②YのXに対する所有権移転登記手続請求権の存在,が既判力によって確定している(民事訴訟法114条1項)。

これに対し,Xは後訴において,Yの詐欺(民法96条1項)を理由として,本件売買契約を取り消し,本件売買契約の効果が遡及的に無効になる(民法121条)ことを理由として,原状回復請求(民法121条の2第1項)としての所有権移転登記抹消手続請求を行っている2

この主張は,前訴既判力で確定した②の判断に抵触するため,既判力によって遮断されないか。まず,既判力が生じる基準時が問題となる。

(1) 事実審の口頭弁論終結の時点までは,当事者は訴訟資料を提出することができるため,この時点までは既判力の正当化根拠である手続保障が及んでいるといえる。そこで,既判力が生じる基準時は事実審口頭弁論終結時と考える

(2) 本件において,前訴の既判力が生じるのは,前訴の事実審口頭弁論終結時までの事情である。本件でXが主張しているのは,事実審口頭弁論終結時以後の権利ではなく,その時点以前の権利であるため,原則として,Xの主張は前訴既判力により遮断される

2 しかし,本件でXは形成権である取消権の主張である。形成権は,形成権を行使する旨の意思表示を行った時点で実体法上の権利変動という効果を発生させるものである。

そのため,取消しの原因が基準時前に生じているとしても,前訴既判力基準時以降にXが取消しの意思表示を行っている以上は,前訴既判力の基準時以降の事情ともいえる

そこで,前訴基準時前に発生していた形成権を基準時後に行使した場合に,前訴既判力により遮断されないかが問題となる。

(1) 既判力は制度として,紛争の一回的解決を要求している以上,形成権行使が基準時後になされたというだけで遮断を認めないのは妥当性を欠く。そこで,当該形成権が前訴の訴訟物に内在・付着する瑕疵を理由とするものである場合には,その形成原因が基準時後に存する場合にのみ,前訴既判力により遮断されない

(2) 取消権は,当該契約の要素内における瑕疵を理由として,契約の効果発生を障害する事由であり,権利に内在・付着する瑕疵に基づく形成権である。

そして,本件においては,Xは詐欺を理由として取消しの主張をしている。詐欺の原因は契約当初にあるため,形成原因が前訴既判力基準時前に生じていたといえる。よって,前訴既判力によって遮断される

3 以上より,Xの主張は,前訴判決の既判力によって遮断される

Footnotes

  1. もしくは,本件契約効果の遡及的無効によって,Xに本件土地の所有権が復帰したことを理由として,物権的請求権(妨害排除請求権)として,所有権移転登記抹消手続請求を行うことも想定できます。この場合には,①と②の双方の判断についての抵触が観念できそうです。原状回復請求権として書くか,物権的請求権として書くかはどちらでも良いと思いますし,そもそも書かないという選択肢も大いにアリかと思います。どちらにせよ,②の判断に抵触します。
  2. もしくは,本件契約効果の遡及的無効によって,Xに本件土地の所有権が復帰したことを理由として,物権的請求権(妨害排除請求権)として,所有権移転登記抹消手続請求を行うことも想定できます。この場合には,①と②の双方の判断についての抵触が観念できそうです。原状回復請求権として書くか,物権的請求権として書くかはどちらでも良いと思いますし,そもそも書かないという選択肢も大いにアリかと思います。どちらにせよ,②の判断に抵触します。

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