1 前訴であるXA間の訴訟においては,「主文に包含されるもの」として,XのAに対する本件土地の所有権移転手続請求権の存在について既判力が生じている(民事訴訟法114条1項)。それでは,前訴で生じた既判力は,XY間の後訴に作用するか。まず,既判力の主観的範囲が問題となる。
(1) 既判力の正当化根拠は,手続保障が充足されることによって,自己責任を問うことができる点にある。そのため,事件につき手続保障が与えられた当事者についてのみ既判力が及ぶのが原則である(民事訴訟法115条1項1号,相対的効力の原則)。
(2) Yは前訴当事者ではないため,原則としてXY間の訴訟において,前訴既判力は作用しない。
2 もっとも,当事者間を相対的に拘束するのみでは実効的な紛争解決を実現できない場合について,当事者と密接な関係にある第三者についても,明文で例外的に既判力が及ぶ(民事訴訟法115条1項2〜4号)。前訴基準時後に,AはYに本件土地を譲渡しているため,Yは「口頭弁論終結後の承継人」(民事訴訟法115条1項3号)に当たり,XY間訴訟に前訴既判力が及ぶのではないか。「承継人」の意義が問題となる。
(1) 民事訴訟法115条1項3号の趣旨は,前主の訴訟追行によって,代替的に手続保障が及んでいる承継人に対しても,既判力を及ぼすことで,判決による紛争解決の実効性を確保する点にある。そして,訴訟物たる権利関係を承継した者だけでなく,紛争主体となりうる地位を有する者にまで既判力を拡張しなければ,その趣旨は達成できない。そこで,「承継人」とは,前主から紛争主体たる地位を承継した者をいう。
(2) Yは前主たるAから前訴訴訟物である本件土地の所有権移転手続請求権を承継したわけではない。しかし,AはYに対して,売買契約を締結したことを理由として,本件土地の占有を移転しているため,本件土地の原告,もしくは,被告となる地位がYに対して承継されたものといえる。また,Yは前訴基準時以降に本件土地を譲り受けている。
よって,Yは「口頭弁論終結後の承継人」に当たり,XY間訴訟に前訴既判力が及ぶ。
(3) したがって,前訴既判力は,YがXの本件土地の所有権移転登記手続請求権の存在を争えない通用力として作用する。
3 しかし,Yは自身が「善意の第三者」(民法94条2項)である旨を主張している。前訴既判力が上記の形でXY間の後訴に作用する以上,Yが本件抗弁を提出することは認められないのではないか。固有の抗弁の提出は既判力により遮断されるかが問題となる。
(1) 既判力が及ぶことは,第三者が前訴確定判決の判断内容について争えないことを意味する。そして,承継人が主張する固有の抗弁は,前訴確定判決の判断内容には含まれていない以上,提出が妨げられる理由は存しない。よって,固有の抗弁の提出は既判力により遮断されない。
(2) Yが主張する,自身が「善意の第三者」に当たる旨の抗弁は,前訴確定判決での判断との関連性がない,Y固有の抗弁である。そのため,Yが本件抗弁を提出することは認められる。
4 以上より,前訴確定判決の既判力は,後訴において,Aから紛争主体たる地位を承継したため,XのAおよびYに対する本件土地の所有権移転手続請求権の存在を認めた判断内容について争うことを許さない基準として作用する。しかし,Yの固有の地位に基づいた本件抗弁の提出は,前訴の判断内容の範囲外にあるため,前訴確定判決の既判力は,その提出を妨げる基準としては作用しない。
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