【Law Practice 民事訴訟法】基本問題38:訴訟上の和解の効力

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第1 和解の効力の否定の可否

1 XはYに対して,和解契約を締結するに際して行った意思表示に錯誤(民法95条)があることを理由として,訴訟上の和解を取り消して,効力を否定することが考えられる。それでは,訴訟上の和解を民法の意思表示の瑕疵に関する規定によって取り消すことは可能か

(1) この点については,訴訟上の和解は,当事者間でなされた和解を訴訟上主張するという側面があること,民法の和解契約に関する規定(民法695条,696条)の適用が及ぶことから,訴訟行為としての性質と,実体法上の和解契約としての性質とを併せて有すると考える。

それならば,実体法上の和解契約の無効が認められる場合には,訴訟上の和解も無効となるため,これを民法の意思表示規定によって取り消すことは可能である

(2) 本件においても,本件和解契約における意思表示が錯誤の要件を満たす場合には,取り消すことが可能である

2 それでは,本件のXの意思表示は錯誤に基づくものとして取り消すことができるか

(1) 本件では,Xは甲土地上にテナントビルを建設する予定であったが,甲土地には行政上の規制があったため,その予定を実現できなかった点に錯誤が認められる。この錯誤は,「法律行為の基礎とした事情」(民法95条1項2号)に関する錯誤である。

(2) Xが甲土地の譲渡を内容に組み入れた和解契約に対して締結する旨の意思表示を行ったのは,テナントビルの建設という目的に合致すると考えていたからであり,その目的に合致していないことをXが知っていれば,Xは本件和解契約に応じてはいなかった。そのため,この錯誤は,本件「法律行為の目的……に照らして重要なもの」(民法95条1項)といえる。

(3) Xは,甲土地にテナントビルを建設予定であることをYに対して明示した上で交渉を行っていた以上,このことは,XとYとの間の共通認識となっていたといえるため,「表示」(民法95条2項)がなされていたといえる。

(4) 以上より,錯誤の要件をみたすため,Xの意思表示を錯誤に基づくものとして取り消すことができる。なお,Yの抗弁しうる事実である民法95条3項の事情は認められない。

3 そうだとしても,訴訟上の和解には「確定判決と同一の効力」が生じる(民事訴訟法267条)。ここに既判力が含まれるか。Xの取消しの主張は,和解による既判力によって遮断され,認められないこととなるため,問題となる。

(1) 既判力の正当化根拠は,手続保障が充足されたことによって自己責任が問える点にある。しかし,訴訟上の和解に関しては,その成立過程に裁判所が十分に関与しているわけではないため,既判力を及ぼすに足りる手続保障は及んでいない。また,和解調書の記載は,判決主文に対応する部分がないため,既判力が生じる範囲が不明確であるし,第三者との権利関係も盛り込まれることもあることから,既判力が生じうる範囲についての事情が本来の既判力の客観的範囲とは大きく異なるおそれがある。

そこで,「確定判決と同一の効力」に既判力は含まれない

(2) よって,Xの取消しの主張は,和解による既判力によって遮断されることはない

4 以上より,Xは,錯誤に基づく意思表示の取消しを主張することにより,本件訴訟上の和解の効力を否定することができる

第2 訴訟上の和解の効力を否定する主張方法

1 期日指定の申立て

上記のように,和解調書の既判力を否定する見解を採る場合には,和解契約の無効を主張することが許される。和解契約が無効となると,訴訟の終了原因も存在しなかったことになるため,訴訟はいまだ係属していると捉えることができる。そこで,口頭弁論期日の指定を行い,訴訟を再開するという形の主張方法が考えられる

2 和解契約の無効確認の訴え

和解調書において既判力は生じないため,後訴で和解契約の無効確認の訴えを行うという主張方法が考えられる

しかし,期日指定の申立てが可能である以上は,確認の利益,特に方法選択の適切性が認められないとして,訴え却下判決が下されるおそれがある。

3 請求異議の訴え(民事執行法35条1項)

和解調書によって,債権が執行される場合には,請求意義の訴えを行うという主張方法が考えられる。しかし,今回は,YがXに対して,和解契約によって特段債権が認められるものではないため,この主張方法は失当である。

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