1 XはYとの間で,訴訟上の和解においてなされた和解契約を解除し,後訴を提起しようとしている。この主張に対して,和解調書の効力が影響を生じるのではないか。訴訟上の和解については,「確定判決と同一の効力」が生じる(民事訴訟法267条)。この和解調書の「効力」に既判力も含まれるか。仮に含まれるとした場合には,和解調書の内容に反する主張が既判力によって遮断されうるため,問題となる。
(1) 既判力の正当化根拠は手続保障に基づく自己責任が及ぶ点にある。しかし,訴訟上の和解においては,裁判所の関与が通常の訴訟よりも不十分であることは否めず,既判力の波及を正当化する根拠に欠ける。また,和解調書においては,判決主文に対応する部分が存在せず,既判力の及ぶ範囲が不明確となり。かつ,広範に及ぶおそれがあるため,既判力が及ぶとするのは妥当性を欠く。
そこで,和解調書の「効力」に既判力は含まれないと考える。
(2) よって,Xが和解契約の解除を主張することについて,「効力」が影響を与えることはない。
2 それでは,XがYに対して,和解契約の解除を申し入れた場合に,前訴が復活するか。解除の効果としての,法律関係の遡及的消滅(民法545条1項)が従前の訴訟の終了効についても及び,従前の訴訟が復活するかが問題となる。
(1) 和解契約に関する解除事由は,あくまでも和解契約の内容についての不履行であり,和解契約の成立それ自体ではない。そのため,実体法上の和解契約の効力の否定を超えて,従前の訴訟終了の効果を否定できるとすべき必要はない。
また,解除はあくまでも和解契約の実体法上の効果を消滅させるものであり,訴訟上の和解の訴訟行為としての効力についてまで消滅させる効力まで有していると捉えるのは困難である1。
そこで,解除の効果は従前の訴訟の終了効には及ばず,従前の訴訟は復活しないと考える。
(2) 本件でも,XY間の従前の訴訟に関する訴訟終了効は消滅せず,前訴が復活することはない。
3 以上より,Xが解除を主張するとともに後訴を提起したことによって,後訴が二重起訴禁止(民事訴訟法142条)に反し,不適法となるという旨のYの主張は失当である。裁判所は,後訴を適法なものとして受け入れ,審理判断すべきである。
4 なお,後訴提起以外の手段としては,前訴の期日指定の申立てを行うことが想定される。しかし,前述したとおり,前訴の訴訟終了効が消滅するわけではないため,期日指定の申立てによって旧訴を再開させることはできない。
したがって,Xは後訴提起以外の方法で和解の解除を主張することはできない。
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