【事例演習 刑事訴訟法】4:身体拘束の諸問題(1)

事例演習 刑事訴訟法
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第1 設問(1)について

1 勾留請求への対応を検討する前提として,KによるXの逮捕行為が適法かを検討する。

令状主義→今回令状なし→原則違法→しかし

(1) Xは「現に罪を行い,又は現に罪を行い終わつた者」(現行犯人,刑事訴訟法213条,212条1項)に当たり,本件逮捕は適法といえないか

ア 現行犯逮捕が,令状主義(憲法33条,刑事訴訟法199条1項)の例外として,無令状で行うことが許容される趣旨は,誤認逮捕のおそれが低いことにある。それならば,現行犯逮捕の要件としては,①犯罪と犯人の明確性,②現行性・時間的接着性,が必要である。そして,身体の自由への制約を伴う処分である以上は,③逮捕の必要性が認められる必要がある

イ(ア) 本件においては,犯人はVに対して,目の前でナイフを突きつけるなど,大きな恐怖感を抱かせるような犯行を行ったため,Vの脳内には,犯人に関する特徴が明確な形で残存していることが推認できる。

そして,供述に高度の信頼性があると思われるVが伝えた犯人の特徴と,Xの特徴が一致していたこと,Vが犯人とXとの同一性を証言したこと,Vが盗まれたと供述した1万円札5枚がXのポケットから出てきたことを総合的に考慮すると,Xが犯人であることは明確であるといえる。

(イ) しかし,KがXを発見したのは,事件発生時点から約2時間後であり,また,発見場所は,事件現場から8キロメートル離れた地点であった。この点にかんがみると,犯罪発生と逮捕との間の時間的場所的離隔が大きいため,犯人としての特定性は失われたと見るべきであり,現行性・時間的接着性は認められない

ウ よって,Xは現行犯人に当たらない

(2) それでは,本件逮捕行為は刑事訴訟法212条2項各号の要件をみたし,Xが現行犯人とみなされることを理由として,本件逮捕は適法といえないか

ア 刑事訴訟法212条2項各号に当たる場合に現行犯人とみなされる趣旨は,同項各号に該当する場合には,上記①が客観的に認められることにある。そこで,①の要件をみたし,それに加えて,②’「罪を行い終わつてから間がないと明らかに認められる」こと,前述の場合と同様に③逮捕の必要性,が認められる場合に,現行犯人とみなされると考える。

イ(ア) 本件では,犯行時点以降犯人は見失われていた。そして,Xに対してKが質問した時に逃げ出そうとした事情もない。また,Xは犯罪に利用したナイフを持ってはおらず,犯行の証跡も特段見当たらない。よって,Xについて,刑事訴訟法212条2項各号に当たる事情が存在しない

(イ) よって,本件逮捕は刑事訴訟法212条2項各号の要件をみたさない

(3) KはXに対して緊急逮捕(刑事訴訟法210条1項)に当たる旨をXに伝えた上で逮捕したと見るべき事情もないため,緊急逮捕の要件もみたさない

(4) 以上より,本件逮捕行為は,逮捕状なくして逮捕に及んでいるものであり,違法である

2 本件勾留の前段階としての逮捕は違法になされているが,令状裁判官は勾留を認めることができるか違法な逮捕が先行する場合の勾留が許されるかが問題となる。

(1)ア 原則論

逮捕前置主義(刑事訴訟法207条1項参照)の趣旨は,被疑者の人権保護のため,慎重な手続を行う点にある。この趣旨を実現するために,身体拘束の当初は犯罪の嫌疑や拘束の必要性の判断が流動的とならざるを得ない点にかんがみて,まずは短期間の拘束である逮捕を先行させ,その期間に捜査を尽くし,それでなお犯罪の嫌疑や身体拘束の必要性は認められる場合に初めて勾留を認めるという方法が採られている。

それならば,先行逮捕は適法であることが当然の前提であり,違法な逮捕が先行する場合の勾留は許されないのが原則である。

イ 修正論

しかし,軽微な違法があるにすぎない場合であっても一律に勾留を認めないとする場合には,逃亡や罪証隠滅のおそれを防止する必要がある場合に不適切な結果を招来する

そこで,先行する逮捕手続に令状主義(憲法33条,刑事訴訟法199条1項)の精神を没却するような重大な違法がある場合に限り勾留請求は許されないと考える。

(2) 本件では,前述のとおり,先行する逮捕が違法であるため,勾留が許されないのが原則である。

そして,先行する逮捕手続は,現行犯逮捕の要件をみたさないにもかかわらず,現行犯逮捕として行われたものであり,令状主義の違反であり,令状主義を没却する側面がある。

(3) そうだとしても,本件では,前述のとおり,Xが強盗罪という「死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役……に当たる罪」を「犯したことを疑うに足りる充分な理由」があり,Xの逃走を許さないため,逮捕することが「急速を要し」たといえる。

この場合には,Kが緊急逮捕の手続を執っていれば,適法に逮捕できたはずである(刑事訴訟法210条1項)。それならば,この意味で令状主義の精神の没却は見られないのではないか

ア この点について,緊急逮捕の本質的要素は,あくまでも逮捕行為の後「直ちに」裁判官の逮捕状を請求することで,事前の令状呈示がなされたのと同視できる状況を作り,令状主義の要請に応えることにある。それならば,逮捕行為直後の令状請求がない場合には,緊急逮捕の要件は到底みたされず,令状主義の没却は認めざるを得ない

イ 本件においても,Kは逮捕状の請求を行ったという事情は何ら存在しないため,緊急逮捕の要件はみたされず,令状主義の没却するような重大な違法が認められる

(4) したがって,本件では勾留請求は許されない

3 以上より,令状裁判官は本件勾留請求を却下すべきである

第2 設問(2)について

1 検察官は,逮捕手続の違法によるXの釈放の後に,同一被疑事実により再度Xを逮捕しようとしているが,この逮捕は許されるか先行逮捕の違法により釈放された後の際逮捕が許されるかが問題となる。

(1) 司法の廉潔性の維持確保,将来の違法捜査抑止の観点から,先行手続に違法性があった場合の再逮捕は許容すべきではない。

しかし,勾留請求の却下により,裁判所が先行捜査が違法である点を宣言しており,司法が違法に屈しないことを示すことができていること,それにより,将来の違法捜査が抑止されることに一定の効果を及ぼしているであろうこと,にかんがみると,司法の廉潔性や違法捜査抑止の要請は相当程度実現されているといえ,必ずしも再逮捕を許さないとする必要はない

そこで,①違法の程度,②犯罪の重大性,③再逮捕を許さないことによる捜査へ及ぼす影響,など,諸般の事情を総合的に考慮し,再逮捕が許されるかを判断すべきである。

(2) 確かに,Kが行った逮捕に内在する違法性の程度は,令呪主義を没却する点で重大でともいえる。しかし,この違法性は,勾留請求の却下により,相当程度評価し尽くされており,②や③の事情がみたされる場合にまで再逮捕を許さないほど強度の違法性を有するものとはいえない。

そして,本件犯罪は深夜のコンビニを狙った強盗事件であり,犯人はナイフという死の危険を伴いうる狂気を用いているため,場合によっては被害者の生命の危険が生じる重大な事件であり,被疑者を逮捕して,犯罪の真実解明を進める必要性は高い

そして,再逮捕を許さないこととした場合には,有力な目撃証言がなされているXという非常に嫌疑の強い被疑者を釈放することとなり,逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれを生じるため,捜査へ悪影響を及ぼす

これらの事情を相応的に考慮すると,本件再逮捕は許されると考えられる。

2 以上より,検察官が本件再逮捕を行うことは許される

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