【Law Practice 民事訴訟法】基本問題40:訴えの変更

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1 XはもともとはYに対して甲家屋引渡請求および所有権移転登記手続請求を行っていた。しかし,甲家屋が焼失したため,従前の請求を履行不能による損害賠償請求(民法415条2項1号)へと訴えを変更する旨の申立てをした(民事訴訟法143条1項)。Xによってなされた訴えの変更は認められるかを検討する。

(1) 本件訴えの変更は,「請求の基礎に変更がない」といえるか請求の基礎の同一性の判断基準が問題となる。

ア 民事訴訟法143条1項において,請求の基礎の同一性が要求される趣旨は,被告が原告によって防御対象を予想外のものに変更されることによって想定外の不利益を被ることを防止する点にある。そして,その不利益を及ぼさない範囲において,訴えの変更を認めることは,別訴で行うよりも旧請求の資料を利用した上で審理できる点で訴訟経済に資する

そこで,請求の基礎の同一性は,①新旧両訴因の利益関係が社会生活上共通であり,②旧請求をめぐる裁判資料の継続利用が可能な場合に認められる

イ 本件では,変更後の請求である損害賠償請求は,従前の訴訟の内容が目的物の消滅によって転化したものにすぎない。そのため,いずれも甲家屋に関する利益関係によるものという点で社会生活上の共通性が見られる。よって,①はみたされる

また,従前の請求の基礎をなす部分がみとめられなければ,履行不能に基づく損害賠償請求権は認められない。そのため,従前の請求は,変更後の請求が認められる前提をなすといえる。それならば,従前の訴訟の裁判資料が継続利用できることは明らかである。よって,②はみたされる

ウ よって,「請求の基礎に変更がない」といえる

(2) Xが本件の訴えの変更を行ったのは,証拠調べの口頭弁論期日の前である。従前の訴訟における証拠調べが完了した段階には未だないため,従前の訴訟経過が徒労に帰する部分は少ない

そして,変更後の訴訟では,新たにYの過失の有無について審理判断する必要があるが,未だ証拠調べの口頭弁論期日を経ていない以上は,このことが訴訟過程の著しい遅滞を生じさせることは考えづらい

よって,「口頭弁論終結に至るまで」(民事訴訟法143条1項本文)になされたものでかつ,「著しく訴訟手続を遅滞させることと」ならない(民事訴訟法143条1項ただし書)といえる。

(3) 本件申立ては,「書面で」行われており(民事訴訟法143条2項),訴えの併合の一般的要件(民事訴訟法136条)についても欠けるところはない

(4) 明文では,訴えの変更に際して,被告の同意は要求されていない。それでは,本件訴えの変更においては,被告Yの同意は必要ないのか。本件は,従前の請求に代えて変更後の請求を設けるものであるため,いわゆる訴えの交換的変更に当たる。訴えの交換的変更は,訴えの変更の独自の類型として認められ,被告の同意を得る必要がないのか

ア 訴えの変更には,被告の同意が必要である旨の文言がない。そのため,訴えの交換的変更という独自の類型を認める場合には,被告の同意なしに旧訴の訴訟係属を消滅させることが論理的には可能となる。

しかし,それは実質的には,訴えの取下げ(民事訴訟法261条1項)の性質を有するものであり,被告の同意(民事訴訟法261条2項)を必要としないのは,訴えの取下げに関する規定との整合性を欠く。また,被告の同意なしに旧訴の訴訟係属を消滅させることは被告にとっての大きな不利益となる。

そこで,訴えの交換的変更という独自の類型を認めるのではなく,訴えの変更と訴えの取下げとの複合的行為であると捉えるべきであると考える。

イ それならば,本件訴えの変更においては,被告Yの同意は必要である。しかし,本件では,Yは本件訴えの変更に同意したとの事情は見当たらない

2 以上より,被告Yの同意があれば,本件訴えの変更は認められる

3(1) 仮にYの同意がない場合であったとしても変更を申し立てた部分の訴えの追加的変更は認められる。そこで,その場合には,裁判所は,従前の請求については,旧訴の係属を消滅させない,という取扱いをすべきである

(2) 仮にYの同意があり,訴えの変更のすべての要件をみたしている場合には裁判所は従前の請求については,訴えが取り下げられたものとして扱うべきである


*民事訴訟法の一学修者がその学修過程で作成した解答例にすぎません。
*批判的な視点で見て,参考にしていただければ幸いです。

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