【Law Practice 民事訴訟法】発展問題6:二重起訴と相殺の抗弁

Law Practice 民事訴訟法
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【よわよわが書いた解答例】

第1 設問(1)について

1 はじめに係属していたAB間の訴訟(以下,この訴訟を「前訴」という)において,BはAに対して,予備的抗弁を提出した。

その予備的抗弁の内容は,Aが提起した2000万円の売買代金債権(以下,「α債権」という)を請求したことに対して,解除(民法541条)の主張が認められなかった場合であっても,BがAに対して有している2000万円の売買債権(以下,「β債権」という)によって,訴求債権を相殺する(民法505条)というものである。

そして,この相殺の抗弁が提出された訴訟が係属している状態で,Bがさらにβ債権の履行を求めて,訴訟(以下,「後訴」という)を提起した。この場合には,β債権は前訴と後訴とに二重に係属することとなる

相殺の抗弁は,判決理由の中で判断される事項であるが,例外的に既判力が生じる(民事訴訟法114条2項)。それならば,二重係属によって判決内容の矛盾抵触が生じうるため,後訴提起は,二重起訴禁止を定めた民事訴訟法142条が適用され,不適法となるのではないか

(1) まず,前訴における相殺の抗弁の提出は,「事件」ではないため,民事訴訟法142条を直接適用することができない。

もっとも,民事訴訟法142条の趣旨は,①矛盾した判決内容が生じる危険や,②訴訟不経済,③被告の応訴の負担,を回避する点にある

そして,相殺の抗弁は予備的抗弁で出された場合であっても,審理判断される可能性はあり,その場合に,当該債権の存否の判断には既判力が生じる(民事訴訟法114条2項)以上,上記趣旨に反するおそれは否定できないため,後訴提起を禁止する必要がある。

また,相殺の抗弁を前訴で提出した者は,反訴(民事訴訟法146条)の提起によって,判決内容の矛盾を回避しつつ(予備的にではなく,)確実な判断を求めることができる以上,別訴を提起する地位を保障せずとも,その者の訴訟上の地位が害されるわけではない

そこで,相殺の抗弁提出後,相殺に供した債権を別訴で訴求することについては,民事訴訟法142条が類推適用され,不適法となる

(2) 本件でも,Bが後訴でβ債権の履行を求めて提起した後訴については,民事訴訟法142条が類推適用され,不適法となる。

2 以上より,後訴提起は,民事訴訟法142条類推適用により,同一の事件について訴訟が係属しているものと同視できるものとして,訴訟要件欠缺となり,不適法である。裁判所は,この訴えを適法とすべきではない

第2 設問(2)について

1 前訴において,AがBに対して,α債権の履行を請求しており,後訴で,BがAに対して,β債権の履行を請求している。そして,Aが後訴において,α債権でβ債権を相殺する旨の抗弁を提出した。この相殺の抗弁提出も,前訴との判決の矛盾内容を惹起しうるため,民事訴訟法142条に反し,不適法となるのではないか

(1) まず,相殺の抗弁は「訴えを提起すること」ではないため,民事訴訟法142条を直接適用することはできない。

(2) そこで,民事訴訟法142条を類推適用すべきかを検討する2

ア 相殺の抗弁は,相手方の提訴を契機として,防御の手段として提出されるものであり,簡易迅速かつ,確実な決済や,相殺の担保的機能の実効性確保に資するため,後訴での相殺の抗弁提出を適法とする必要性がある。

また,同一当事者間で同時期に訴訟係属している場合に,一方の訴訟で生じた既判力が他方の訴訟で見逃されるという,裁判所の判断の著しい遺漏が生じることは考え難く,判決の矛盾内容が生じる危険性は実質的にはないといえる。それならば,相殺の抗弁提出を許容できる

そこで,前訴で訴求された債権を後訴で相殺の抗弁として提出することは,特段の事情のない限り,適法として扱うべきである

イ 本件でも,Aが後訴で主張したα債権による相殺の抗弁提出は,適法である。すなわち,民事訴訟法142条を類推適用すべきではない。

2 以上より,裁判所は,当該相殺の抗弁提出を適法とすべきである。

Footnotes

  1. 設問(1)と同様の論理で民事訴訟法142条を類推適用すべきという見解もあると思いますが,思考放棄して論証を貼り付けているだけの感じがして,最近はあまり採用していません。その見解を採るのであれば,設問(2)の結論も設問(1)と同様になりそうですね。
  2. 設問(1)と同様の論理で民事訴訟法142条を類推適用すべきという見解もあると思いますが,思考放棄して論証を貼り付けているだけの感じがして,最近はあまり採用していません。その見解を採るのであれば,設問(2)の結論も設問(1)と同様になりそうですね。

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