1 Pの本件接見指定の適法性について検討する。接見指定は,「捜査のため必要があるとき」にのみ行うことができる(刑事訴訟法39条3項本文)。それでは,本件では,それに当たるか。「捜査のため必要があるとき」とはいかなる場合をいうかが問題となる。
(1) 逮捕等の身体拘束が許容される期間は,厳格に規定されている(刑事訴訟法204条等)。捜査機関は,この身柄拘束が裁判官の審査によって許容される短期間の間に,勾留請求を行うための判断や,公訴提起の準備を可能とする程度の資料を得る必要がある。
その他方で,被疑者に対しては,憲法34条によって保障される弁護人依頼権という憲法上の権利に由来する接見交通権の保障を認める必要がある。
接見指定制度は,これらの必要性を調整するために設けられた規定であるといえる。それならば,接見指定を行う理由としては,被疑者の身柄を理由とした捜査を行うことに限定されるべきである。
また,一般人との接見でさえも裁判官以外は禁止できず,裁判官も一定の条件をみたさなければ接見を禁止できないにもかかわらず,被告人の防御の観点から極めて重要な弁護人との接見交通権について,広範な理由によって接見指定ができると考えることは,両者の均衡を著しく失する。
そこで,「捜査のため必要があるとき」とは,現に被疑者を取調べ中であるとか,実況見分,検証等に立ち会わせる必要があるなど,「捜査の中断による支障が顕著な場合」に限られる。
そして,「捜査の中断による支障が顕著な場合」には,原則として,取調べ,実況見分,検証等の立会いのため,捜査機関が被疑者の身体を現に必要としている場合のほか,間近い時に取調べをする確実な予定がある場合が該当する。もっとも,例外として,それらの捜査の一時中断等を行ったとしても捜査に支障を生じさせないような場合には,これに当たらない。
(2) 本件では,弁護人甲が被疑者乙との接見を申し出た際に,現に取調べが行われていた。
ア この取調べが,接見のために一時的に中断することができないほどの重要性を有したものである場合には,捜査の中断による支障が顕著な場合といえ,「捜査のため必要があるとき」に当たる。
イ その他方で,上記事情が認められない場合には,捜査の中断による支障が顕著な場合とはいえない。
もっとも,本件では,検察官Pは,甲と協議しようとしたが,それに応じようとしなかったため,接見指定を行うことはやむをえない措置といえる。
それならば,本件は,「捜査のため必要があるとき」に当たるとみるほかない。
(3) よって,本件では,上記いずれの場合においても,「捜査のため必要があるとき」に当たるといえる。
2 そうだとしても,本件では,検察官Pは接見指定の内容として,「翌日午前10時から12時までの間」というものを提示している。これは,「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなもの」(刑事訴訟法39条3項ただし書)として,違法となるのではないか。
(1) 上記接見指定制度の趣旨などから,接見指定の内容は,捜査の顕著な支障が生じるのを避けるために,必要かつ合理的な内容でなければならない。
(2)ア 本件において,より早期の日時に認めたとしても,「捜査に顕著な支障」が生じないにもかかわらず,上記のような接見指定の内容を提示した場合には,必要性,合理性ともに欠く内容といわざるをえない。
イ(ア) また,本件接見は,被疑者乙の弁護人が甲以外にはおらず,甲の乙との初めての接見であることにかんがみると,取調べを受けるに当たっての助言を得るために最初の機会であるといえる。
これは,憲法34条の保障の出発点をなすものであるから,初回接見を速やかに行うことは,被疑者の防御の準備にとって極めて重要といえる。
そのため,即時または近接した時点での接見を認めても,接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能な時には,特段の事情がない限り,取調べ等の後,比較的短時間であったとしても,時間を指定した上で即時又は近接した時間での接見を認めるべきである。
(イ) 本件では,取調べ終了後直ちに接見が行えないなどの特段の事情が存在しない。そのため,そのような措置を執らず,上記のような提示をした本件接見は必要性,合理性ともに欠く内容であったといえる。
(3) よって,本件では,「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなもの」に当たる。
3 以上より,本件接見指定は違法である。
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