第1 設問1
1 解除の有効性
本件では,平成23年3月17日,A社は,B社との間の賃貸借契約を解除している。
この解除権の行使は,そもそも有効なのか。
(1)解除の要件
本件解除は,賃貸借契約の約定②に基づくものである。そこで,本件解除の要件は,①賃貸借契約の締結,②賃料の3ヶ月以上の未払,③7日以上の期間を定めた上での催告,④催告後7日間の経過,⑤解除の意思表示,⑥信頼関係の破壊,である。
なお,⑥は,判例上,借地借家関係を解除するためには,信義則上単なる不履行があるだけでは足りず,当事者間の信頼関係の破壊まで必要とされていることによる要件である。
(2)本件における検討
本件では,①〜⑤はいずれも認められる。
また,3ヶ月以上の賃料不払が認められることから,信頼関係破壊に至っているものと考えられる。よって,⑥も認められる。
したがって,本件解除は有効である。
2 Xの主張
Xは,自身が「第三者」(民法545条1項ただし書)としての立場にあることを理由として,解除権の対抗を受けない旨を主張している。
それでは,本件解除は,破産管財人Xに対抗することができるのか。ここでは,破産管財人が「第三者」に該当するかが問題となる。
(1)破産管財人の第三者性
破産手続の開始によって,破産管財人には,破産財団所属財産に関して,包括的な管理処分権が与えられる(破産法78条1項)。そのため,破産手続は,総債権者のための包括的差押え類似の性質を有しているとされる。この点から,破産管財人は,差押債権者類似の法律関係にあるといえる。
そこで,差押債権者が保護されるような法律関係の場合には,破産管財人は,第三者として保護されると考える。
(2)本件における検討
Xは,本件でも,差押債権者が保護されるような関係にあるとして,第三者として保護される旨を主張することが考えられる。
3 Aの反論
(1)Aの反論の概要
Xの主張に対し,Aは,Bのもとで発生した解除権をXは承継する以上,差押債権者が保護されるような関係にはなく,第三者として保護されない旨を反論することが考えられる。
(2)本件における解除権の発生
本件では,解除の意思表示が平成23年3月17日になされていることから,解除権の行使はその日時に行われたものと考えることができる。
しかし,それ以外の解除の要件は,少なくとも,平成23年3月3日の催告後,7日間が経過した平成23年3月10日には発生しているのである。
(3)破産管財人Xの解除権の承継
破産管財人Xは,平成23年3月17日に就任したのであって,それまでに発生したこの解除権を承継している。
そこで,破産管財人Xは,差押債権者として保護されるべき地位にはなく,第三者として保護されるわけではない。
4 結論
以上より,破産管財人は,第三者として保護される地位にはない。
よって,本件解除は,破産管財人Xに対抗することができる。
A社による解除は認められる。
第2 設問2
1 小問(1)について
(1)破産法53条の適用の有無
ア 問題の所在
本件では,破産法53条に基づく本件賃貸借契約の解除の当否が問題となっている。
その前提として,そもそも,破産法53条1項の要件がみたされるかを検討する。
イ 本件における検討
本件賃貸借契約において,A社はB社に対し,甲建物を使用収益させる債務を負担している。これは,既履行であるとはいえない。
他方で,B社は,A社に対し,賃料債務を負担している。これも既履行であるとはいえない。
したがって,「破産手続開始の時において共にまだ履行を完了していない」といえ,破産法53条1項の要件はみたされる。
このことから,本件では,破産法53条に基づく本件賃貸借契約の解除を行うことはできる。
(2)解除の当否
ア 解除の当否を考える上での考慮要素
解除又は履行の選択の際には,再生債務者は,問題となる各契約について,解除と履行のいずれを選択することが破産財団に資するか,を検討する必要がある。
その際に考慮すべき事情としては,履行を選択した場合に自らが履行する債務の内容,受領する反対給付の内容,解除した場合に相手方に対して負う債務の内容,相手方との関係性等が挙げられる。
イ 本件における検討
(ア)解除する実益
乙土地は,借地権も含めた時価が1億円であり,C社への貸金債務の被担保債権額を下回っている。そのため,乙土地をこのまま保有して売却したとしても,破産財団の増加は見込めない。
さらに,本件賃貸借契約によって,月々100万円の賃料債務が発生する。そのため,乙土地をこのまま保有した場合には,破産財団に大きな負担が生じる。
以上の理由により,破産管財人Xは,解除による不利益がこれらの不利益を上回る場合でなければ,解除を行うべきである。
(イ)解除した場合の帰結
本件では,乙建物について,C社がB社に対して有している貸金債権を被担保債権として,C社を抵当権者とする抵当権が設定されている。そして,この抵当権の効力は,乙建物の借地権,すなわち,甲建物の賃借権にも及んでいる(民法87条2項)。
仮に,本件賃貸借契約が解除された場合,乙建物の借地権は失われることを意味する。この場合には,乙建物は,A社によって収去請求を受けた場合には,それを拒めない物件となり,担保価値が下落する。
そこで,本件賃貸借契約を解除した場合には,破産管財人甲は,C社から担保価値維持義務違反を理由として,損害賠償請求(民法709条)を受けることになる。
(ウ)結論
(イ)の不利益は,(ア)で述べた不利益を上回るものと言える。
したがって,破産管財人Xは,本件賃貸借契約を解除すべきではない。
2 小問(2)について
(1)Xが採ることのできる法的手段
本件では,乙建物の抵当権者であるC社が抵当権設定登記の抹消に同意しないため,任意売却を行うことができない。
そこで,Xとしては,担保権消滅許可の申立て(破産法186条1項)を行うことが考えられる。以下,その要件がみたされるかを検討する。
ア 破産債権者の一般の利益への適合
乙建物を売却せずに保有している場合には,月々の賃料債務が発生し,破産財団の逸失をもたらす。
他方で,任意売却を行うことができれば,弁済原資を増加させることにつながる。
そこで,「当該財産を任意に売却して当該担保権を消滅させることが破産債権者の一般の利益に適合する」(破産法186条1項本文)といえる。
イ 抵当権者C社の不当な利益侵害がないこと
任意売却において提示されている売却価額は,1億円であって,その時価と同程度であるといえる。
そのため,本件任意売却によることが「当該担保権を有する者の利益を不当に害することとなる」わけではない(破産法186条1項ただし書)。
ウ あらかじめの協議
本件では,破産管財人XとC社との間で,組入額について,あらかじめ協議がなされている(破産法186条2項)。
エ 結論
以上より,担保権消滅許可の申立ての要件がみたされる。
Xは,担保権消滅許可の申立てという手段を採ることができる。
(2)C社が採ることができる対抗手段
ア 担保権実行の申立て
C社は,Xの担保権消滅許可の申立てに対して,異議があるとして,担保権実行の申立て(破産法187条1項)を行うことができる。
この申立ては,担保権消滅許可の申立ての際に,C社に申立書(破産法186条5項)や書面(破産法186条4項)が送達された時から,1ヶ月以内に,行う必要がある(破産法187条1項)。
そして,担保権実行の申立ては,担保権の実行の申立てをしたことを証する書面を裁判所に提出することによって行う(破産法187条1項)。
イ 買受けの申出
また,C社は,アに記載した送達がされた時から1ヶ月以内に,自らもしくはC社が探し出した者が乙建物を買い受ける旨の申出(破産法188条1項)を行うこともできる。
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