【Law Practice 民事訴訟法】基本問題15:時機に後れた攻撃防御方法

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1 Yは建物買取請求権(借地借家法13条)の行使を主張しているが、その形成権を行使した時機は、争点となった正当事由(借地借家法6条)の有無に関する口頭弁論期日を3回、弁論準備手続期日(民事訴訟法169条1項)を6回経た上で、2回の証拠調べ期日が終了した後だった。

このことにかんがみて、裁判所はYのこのような主張が時機に後れた攻撃防御方法(民事訴訟法157条1項)に当たるとして却下すべきではないか

2 時機に後れた攻撃防御方法に当たるとして却下することができるのは、①「時機に後れて提出」したこと、②「訴訟の完結を遅延させること」、③「故意又は重大な過失」によること、のいずれもがみたされる場合である。以下では、それぞれについて該当性を検討していく。

(1)ア 「時機に後れて提出」したとは、より早期の適切な時期に提出できたことをいう。

イ 本問では弁論準備手続期日を6回経ており、そこでは、争点の整理がすでに十分になされていたといえる。これを経た上で口頭弁論期日で3回に渡り攻撃防御方法が尽くされていた。このことにかんがみると、主張しうる事由は少なくともこれらの主張に適した手続の時までには提出できたといえるため、より早期の適切な時期に提出できたものである。

(2) Yが建物買取請求権を行使しなかった場合には、証拠調べ期日がすでに終了している以上、間もなく判決が下されるべき段階にあったといえる。

しかし、Yが建物買取請求権を行使した場合には、Xは請求を建物収去土地明渡請求から、建物引渡請求へ訴えを変更する(民事訴訟法143条1項)ことが予想され、さらに、Yはこれに対して建物代金支払との同時履行の抗弁権(民法533条)を主張することになると考えられる。

この場合には、建物の時価についての審理が別途必要となり、さらなる証人尋問(民事訴訟法190条以下参照)、鑑定(民事訴訟法212条以下参照)などの証拠調べを経る必要がある。

以上にかんがみると、訴訟の完結は遅延するといわざるをえない

(3) 確かに、Yが予備的主張として建物買取請求権をあらかじめ提出し得たであろうことは認められ、少なくとも「過失」があったとはいえる。

しかし、建物買取請求権の主張は、Yが争っていた正当事由の存在を認めることを前提とする主張であること、高い財産的価値を有する建物所有権をXに移転するという犠牲を伴う主張であること、にかんがみると、実質的な敗訴につながる主張である。そのため、Yが正当事由が認められるか否かが判明するまでこの主張を提出しなかったことはやむを得ない部分があり、重大な過失とまではいえない

3 以上より、上記の要件のうち、③をみたさないため、裁判所はYのこのような主張が時機に後れた攻撃防御方法(民事訴訟法157条1項)に当たるとして却下の決定をすることはできない。よって、裁判所はYのこのような主張を許すべきである。

4(1) なお、仮に③の要件について、裁判所がYに「悪意又は重大な過失」が認められると判断し、Yの建物買取請求権を本問訴訟において却下した場合は、既判力基準時後において建物買取請求権の行使は遮断されないため、請求異議の訴え(民事執行法35条1項)として建物買取請求権の行使の主張がなされることが予想される。

(2)ア 請求異議の訴えが提起された場合には、裁判所は従来の訴訟資料をそのまま使用できず、係属中の訴訟で継続して審理するよりも手続の進行が遅延することとなるし、また、Xは別手続での訴訟の負担を強いられるという不利益が生じうる。また、Y自身も係属中の訴訟の中での紛争解決を望んでいる

イ それならば、係属中の訴訟の中で建物買取請求権の行使を認めることは、裁判所や各当事者の利益に適ったものであり、また、その意味で提出時期は適切とも評価しうるため、民事訴訟法157条1項の趣旨である適時提出主義(民事訴訟法156条)の理念を損なうものでもないといえる。

(3) そこで、裁判所はYに「重大な過失」が認められると判断する場合であっても、建物買取請求権の行使につき、却下の決定をするべきではない。すなわち、裁判所はYの建物買取請求権を行使する旨の主張を許すべきである。

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