1 弁護人は,被告人が旅券等を所持しないで本邦に上陸した事実について,自白を唯一の証拠としているため,補強法則を定めた刑事訴訟法319条2項,憲法38条3項に反することを理由として,訴訟手続の法令違反を主張している。この点について,以下で検討する。
2 まず,いかなる事実について,補強証拠が必要とされるかが問題となる。
(1) 補強法則の趣旨は,自白以外の他の証拠の存在を有罪認定の条件とすることにより,自白の真実性を担保した上で,自白偏重による誤判の危険を,制度的に回避することにある。
そこで,自白に関する事実の真実性を担保するといえる範囲の補強証拠があれば足りると考えるべきである。
(2) 被告人は,出入国管理及び難民認定法(以下,「法」という)違反罪について,有罪判決の言渡しを受けた。その構成要件は,「有効な旅券を所持しない」ため,「本邦に入つてはならない」にもかかわらず,「本邦に入つた」こと(法70条1項1号,3条1項1号)と,「本邦に上陸した後引き続き不法に在留する」こと(法70条2項)であり,それらは別個に犯罪を構成する4。
そして,被告人は,捜査段階から,公判段階まで一貫して犯罪事実について自認しており,検察官が提出した証拠にも何ら意義を述べていない。
よって,被告人が自白した内容は,①上陸当時,旅券等を所持していなかったこと,②上陸後,不法に在留したこと,といえる。
そこで,それらの自白した内容につき,真実であることを担保するといえる範囲の補強証拠があれば足りる。なお,その際の補強証拠は,被告人の供述と独立した証拠であることを要する。
3 それでは,被告人が自白した内容につき,真実であることを担保するといえる範囲の補強証拠があるといえるか。
(1) ①の事実について
第1審においては,出入国及び外国人登録記録等に関する照会回答書が,①の事実の真実性を担保する証拠として提出されていた。しかし,これは,被告人とは別人に関する証拠であったため,本件とは何ら関連性がなく,証拠として用いることができない。そして,①の事実の真実性を担保する証拠は,被告人の供述を録取した証拠以外は,他に提出されていない5。
(2) ②の事実について
ア 被告人と同居していた者の検察官面前調書により,②の事実の真実性が担保でき,補強証拠が存在しているとも考えられる。
イ しかし,被告人と同居していた者の供述は,被告人が在留していたという事実に過ぎない。外国人の在留それ自体は,原則として違法とされるものではなく,あくまでも①の事実による違法があることを前提として,在留が不法在留として違法となるものである。すなわち,外国人が在留したことそれ自体は,犯罪的色彩を帯びる要素ではない6。よって,被告人が在留していた事実を示す証拠は,被告人が自白した内容につき,真実であることを担保する証拠とはいえない。
(3) したがって,被告人が自白した内容につき,真実であることを担保するといえる範囲の補強証拠があるとはいえない。
4 以上より,被告人が旅券等を所持しないで本邦に上陸した事実について,自白を唯一の証拠とした上で有罪判決をしたといえるため,補強法則を定めた刑事訴訟法319条2項,憲法38条3項に反する。よって,訴訟手続の法令違反が認められる。
Footnotes
- 両者は併合罪としての関係にあると考えているのでしょうが,いかがでしょうか。というのも,不法入国は1つの「時点」で集結する行為であり,不法在留は「線」のように継続性が見られる行為だと思われるからです。それならば,観念的競合,すなわち,実体法上の一罪と安易にいえるのかが疑問です。
- 仮に,自白の真実性の担保が,「被告人の自白全体のうちの一部分」に対してではなく,「被告人の当該犯罪事実それ自体」に対して必要なのだと考えるのであれば,不法入国に関して補強証拠が存在しない以上,答案はここで終了になると思われます。「被告人の自白全体のうちの一部分」に対して,補強証拠が存在すれば足りるとするのであれば,不法入国とは別罪である不法在留についての自白の真実性を担保できれば足りることになると思われます。
- 罪体説と同様の議論が混入しているため,混同しているものと捉えられうる部分だと考えています。ただし,在留していたことそれ自体についての証拠のみで,自白の真実性が担保されるかどうかは個人的には非常に怪しいと考えています。もしそのように考えるのであれば,同居の人間の供述がなくても,被告人が現に日本にいることそれ自体を証拠とすることで,補強されてしまうことになりうるでしょう。そのような補強は意味があるのでしょうか。そもそも,犯罪的色彩を帯びない事実については,被告人にとって「自己に不利益な……証拠」(刑事訴訟法319条2項)にはならないと考えられます。それならば,自白とされる被告人の供述のうち,犯罪的色彩を帯びるか否かである種の場合分けをすることは,論理的には不自然ではないと考えたのですが,いかがでしょうか。このように考えた場合,不法入国だけではなく,不法在留についても,補強証拠が存在するかも同様に問題となる気がしています。
- 両者は併合罪としての関係にあると考えているのでしょうが,いかがでしょうか。というのも,不法入国は1つの「時点」で集結する行為であり,不法在留は「線」のように継続性が見られる行為だと思われるからです。それならば,観念的競合,すなわち,実体法上の一罪と安易にいえるのかが疑問です。
- 仮に,自白の真実性の担保が,「被告人の自白全体のうちの一部分」に対してではなく,「被告人の当該犯罪事実それ自体」に対して必要なのだと考えるのであれば,不法入国に関して補強証拠が存在しない以上,答案はここで終了になると思われます。「被告人の自白全体のうちの一部分」に対して,補強証拠が存在すれば足りるとするのであれば,不法入国とは別罪である不法在留についての自白の真実性を担保できれば足りることになると思われます。
- 罪体説と同様の議論が混入しているため,混同しているものと捉えられうる部分だと考えています。ただし,在留していたことそれ自体についての証拠のみで,自白の真実性が担保されるかどうかは個人的には非常に怪しいと考えています。もしそのように考えるのであれば,同居の人間の供述がなくても,被告人が現に日本にいることそれ自体を証拠とすることで,補強されてしまうことになりうるでしょう。そのような補強は意味があるのでしょうか。そもそも,犯罪的色彩を帯びない事実については,被告人にとって「自己に不利益な……証拠」(刑事訴訟法319条2項)にはならないと考えられます。それならば,自白とされる被告人の供述のうち,犯罪的色彩を帯びるか否かである種の場合分けをすることは,論理的には不自然ではないと考えたのですが,いかがでしょうか。このように考えた場合,不法入国だけではなく,不法在留についても,補強証拠が存在するかも同様に問題となる気がしています。

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