1 XY間の訴訟において,Bに対する証人尋問(民事訴訟法190条以下)が実施された。しかし,Bは取材対象者の情報に関して,「職業の秘密」(民事訴訟法197条1項3号)に当たるとして,証言を拒絶した。以下では,Bの当該証言拒絶が認められるかを検討する。
2 本件取材対象者の情報は,「職業の秘密」に当たるか。
(1) 「職業の秘密」とは,その秘密が公開されると,その職務に深刻な影響を与え,以後の遂行が困難になるものをいう。
(2) 本件における取材対象者に関する情報は,取材源に当たる。そして,取材源がむやみに開示されると,報道関係者と取材源となる者との信頼関係が破壊され,将来における事由で円滑な取材活動が妨げられるおそれがある。よって,本件取材源の開示は,報道機関の職務に深刻な影響を与え,以後の遂行を困難にするといえる。
よって,本件取材対象者の情報は,「職業の秘密」に当たる。
3(1) しかし,取材源に関する情報であることを理由として,あらゆる場合に証言拒絶を認めるのでは,民事事件における紛争解決の必要性,裁判上の公正の観点からは妥当性を欠くものといわざるを得ない。この点に対する配慮も考慮に入れるべきである。そこで,すべての「職業の秘密」に対して証言拒絶が認められるのではなく,保護に値する秘密に限り,証言拒絶が認められると考えるべきである。
そして,保護に値するか否かは,秘密の公表によって,秘密の主体が被る不利益と,証言拒絶によって犠牲となる真実発見,裁判の公正確保の必要性,との比較衡量によって決せられる。なお,比較衡量においては,取材の自由が,国民の知る自由に資するという重要な社会的価値を有する点にかんがみて,取材の自由の重要性に比重をおいて検討すべきである。
具体的には,取材源の秘匿が有する社会的意義を考慮してもなお,裁判の公正を維持する必要性が特に高く,それゆえに証言を得ることが必要不可欠であるといえる場合にのみ,保護に値しないと判断することになる。
(2)ア 裁判の公正の維持,証言の必要性の程度
Yが行った放送によって,Xは国税庁の調査を受け,また,評判の著しい低下を惹起し,それにより,会社の売上げの低下が生じた。本件訴訟で問題となっているのは,その売上げ低下によって生じた損害についての賠償請求である(民法709条)。
確かに,Xの立場からすれば,国税庁の調査の負担,評判や売上げ等の低下という不利益を被っており,Bの取材源に対する証人尋問を行えば,虚偽の情報を伝えていたことや,Yの調査の裏付けが不十分でなかったことを立証する余地が生じる。それが,損害賠償請求権を発生させる根拠として機能する可能性がある2以上,本件取材対象者の情報は,必要とされる証拠といいうる。
しかし,本件事件は,個人の損害賠償に関する事案にすぎず,個人の利益追求を超えた公共性や社会に対する影響が大きい事案ではない。さらに,Bの証言拒絶を認めることが裁判の構成の観点から特に必要であること,証言を得ることが必要不可欠であること,を基礎付ける事情は特に存在しない。
イ 秘密の主体が被る不利益の程度
Bは,アメリカの国税当局の職員に対して取材を行い,本件情報を取得している。取材対象者は,自身が情報提供者であることは公開されたくはないのが通常である。本件でも,取材源となった情報提供者が個人情報の開示について同意したという事情はない。そのため,情報を提供した取材源の氏名や住所等が明らかにされる場合には,その者から今後取材を受けることができなくなる蓋然性が認められる。
それにとどまらず,その者以外の情報提供者からも,情報の提供がなされなくなったり,それが躊躇される可能性が非常に高い。それならば,将来の取材による情報の取得を行うことに対する深刻な影響を生じる。
ウ したがって,秘密の公表によって,秘密の主体が被る不利益が,証言拒絶によって犠牲となる真実発見,裁判の公正確保の必要性,を優越しているといえる。
よって,本件取材対象者の情報は,保護に値する秘密といえる。
4 以上より,Bの,本件取材対象者の情報についての証言拒絶は認められる。
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