【事例演習 刑事訴訟法】31:択一的認定

事例演習 刑事訴訟法
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1 本件では,裁判所は,保護責任者遺棄が成立するのか,死体遺棄罪が成立するのかを峻別する事情に関して,真偽不明という心証を抱いた。この場合には,被告人について,保護責任者遺棄と死体遺棄罪のいずれかが成立することは心証上明らかとなっているといえる。

そこで,裁判所は,「保護責任者遺棄又は死体遺棄」という択一的な認定を行い,軽い罪である死体遺棄罪の罰条で処断することができるか異なる構成要件にまたがるいずれかの事実を行ったことは明らかであるものの,そのいずれを行ったかが明らかでない場合に,それらを択一的な形で認定した上で,そのうちの軽い罪によって処断することが許されるかが問題となる。

(1) 有罪判決を行う際に「罪となるべき事実」(刑事訴訟法335条1項)について,択一的記載ができる旨の規定は存在しない。訴因に関しては択一的記載が許される旨の規定がなされている(刑事訴訟法256条5項)ことと対比すると,「罪となるべき事実」としての択一的記載は許されないと考えるのが条文の規定に忠実である。

また,「罪となるべき事実」を択一的に記載することは,択一的な記載を伴った新たな構成要件を作り出したものと同義である。これは存在しない構成要件によって被告人を処断することになる以上,罪刑法定主義の観点から認めるべきでない

さらに,いずれの罪が成立するかが不明であるにもかかわらず,両者の比較の中で重い罪についても「罪となるべき事実」として認定することは,「疑わしきは被告人の利益に」の原則に反するため,認めるべきではない

よって,異なる構成要件にまたがるいずれかの事実を行ったことは明らかであるものの,そのいずれを行ったかが明らかでない場合に,それらを択一的な形で認定した上で,そのうちの軽い罪によって処断することは許されない

(2) 本件においても,「保護責任者遺棄又は死体遺棄」という択一的な認定を行い,軽い罪である死体遺棄罪の罰条で処断することは許されない

2 以上より,裁判所は,上記方法で認定をした上で,死体遺棄罪の罰条で処罰することはできない

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