1 Xは,Yに対して,売買契約の目的物である本件別荘がYの過失によって消失したため,Yの目的物引渡請求が履行されないため,債務不履行の基づく損害賠償請求(民法415条1項)を行っている。
2 Xは「損害」の額として,3000万円であることを想定しており,前訴では,そのうちの500万円について請求を行い,勝訴判決を得た。
3 Xは後訴において,残部である2500万円の支払いを求めているが,この後訴請求は,前訴確定判決の既判力に触れるのではないか。一部請求後の残部請求の可否が問題となる。
(1)ア 実体法上では,私的自治の原則が妥当することから,債権の一部行使は認められ,訴訟法上では,処分権主義が妥当すること(民事訴訟法246条参照)にかんがみると,債権の一部のみを請求することも当然許される。
それならば,その反射的効果として,その請求の余りの部分についても,後ほど請求することが認められるべきである。
イ しかし,前訴において,一部である旨が明示されていないにもかかわらず,後訴で残部に関する主張を許すとなると,前訴において紛争が解決されたという信頼を抱いた相手方に対して不意打ちとなる。
ウ そこで,原告が一部請求であることを明示して請求を行った場合にのみ,残部請求が認められると考えるべきである。
そして,請求時に明示があった場合には,当該一部が独立した訴訟物となり,既判力は当該一部にのみ及ぶため,後訴請求は,前訴確定判決の既判力に触れないと考える。
(2)ア XがYに対して前訴請求を行った当時に,Xが前訴請求が全損害額の一部であることを明示していれば,当該一部である500万円部分のみが訴訟物となるため,後訴請求は前訴確定判決の既判力に触れない。
イ XがYに対して前訴請求を行った当時に,Xが前訴請求が全損害額の一部であることを明示していない場合には,訴訟物は3000万円の損害額すべてとなるため,後訴請求は前訴確定判決の既判力に触れる。
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