【事例演習 刑事訴訟法】7:令状による搜索・差押え(1)

事例演習 刑事訴訟法
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1 本件捜索差押許可状は,「搜索すべき場所,身体若しくは物」(刑事訴訟法219条1項)として,「東京都文京区甲町1丁目2番3号X事務所並びに同所に在所する者の身体及び所持品」という記載がなされている。これは,刑事訴訟法219条1項で令状の記載として特定が要求される趣旨に反するため,この令状に基づいて行われた本件搜索・差押えは違法ではないか

(1)ア 令状の記載において,特定性が要求される趣旨は,①令状を審査する裁判官が搜索等を行う「正当な理由」(憲法35条1項)の有無,すなわち,押収目的物の存在する蓋然性,を判断するに足りる資料を提供した上で,実質的な判断を行えるようにすること,②一般的捜索を可能とする令状の発付を防止すること,にある。

その趣旨にかんがみれば,捜索場所や,捜索対象となる身体,物について,令状裁判官が押収目的物の存在する蓋然性を十分に判断することができない程度のものである場合や,一般的捜索を可能とするおそれがある場合には,特定性を欠き,その令状に基づく捜索は違法である。*上記趣旨に反する令状はダメって言ってるだけのゆるふわ規範です。良い書き方があったら教えてください。

イ 本件では,捜索場所自体は,捜索目的物の存在する蓋然性を判断するに足りる程度に特定されているといえる。

しかし,捜索対象としての身体や,物については,その捜索場所に在所する者の身体,所持品,と記載するだけで,それ以上は何らの特定も行わず,およそ一般的な形で対象としているものである。

捜索対象として指定した場所にいる者を一般的に対象とするだけでは,誰を対象として捜索を行えば良いかが明らかにされていない。そのため,押収目的物が存在する蓋然性を令状裁判官が正しく判断するに足りない。また,捜索対象が誰かが明らかにされていないため,その場にいる者であれば,誰に対しても捜索を行えると捉えることもできる。それならば,一般的捜索を可能とするおそれもある

よって,原則として,本件捜索差押許可状は違法であり,この令状に基づく捜索は違法である

(2) しかし,捜索対象としているX事務所は,犯罪を遂行したと思われるA国人のグループが常時出入りしている場所である。それならば,そこに出入りしている者の身体,その者の所持品に一般的に押収目的物が存在する蓋然性が認められるため,特定性に欠けるところはないのではないか

ア 捜索場所に出入りしていることそれ自体によって,押収目的物を有していると認めるに足りる特段の事情がある場合については,その場所に出入りしている者すべての身体,所持品に押収目的物が存在する蓋然性が認められる。また,その意味で一般的な捜索を可能とする令状とはなりえない

そこで,上記特段の事情がある場合には,例外的に,特定性がみたされ,この令状に基づく捜索は適法である

イ 上記のとおり,X事務所には,本件被疑事実に関する犯罪を遂行したと思われるA国人のグループが常時出入りしている。そして,X事務所は,本件犯行に関する活動拠点として利用されていると考えられる。それならば,X事務所に出入りする者は,基本的には,本件犯行に何らかの形で関与しているものと考えることができる。

よって,X事務所に出入りしていることそれ自体によって,押収目的物を有していると認めるに足りる特段の事情があるといえる。よって,X事務所に出入りしている者すべてに上記蓋然性が認められ,例外的に,特定性に欠けるところはない

(3) したがって,本件捜索差押許可状は例外的に適法であり,この令状に基づく捜索は適法である

2 本件捜索差押許可状は,「差し押さえるべき物」(刑事訴訟法219条1項)として,「本件に関連する……メモ類など一切の物件」と記載している。これは,差押目的物の特定性を欠くため,この令状に基づいて行われた本件差押えは違法ではないか

(1) 憲法35条,刑事訴訟法219条1項が差し押さえるべき物の特定を要求した趣旨は,上記のとおりである。上記趣旨に鑑みれば,差し押さえるべき物の記載は,捜査機関及び被処分者が対象を識別できる程度に個別的・具体的に特定してなされる必要がある

もっとも,捜索・差押えは,捜査の初期段階でなされることが多く,物の具体的内容が判明しない場合が多い。それにもかかわらず,厳格な特定を要求すると,捜査機関に不可能を強いることになり,かえって,被疑者や参考人への取調べを中心とする捜査を助長することになりかねない

そこで,ある程度包括的・概括的な記載も許されると考えるべきである。具体的には,「本件に関連する……など一切の物件」という記載であっても,①具体的例示が付加されたものであること,②「本件」の内容が明確であること,がみたされる場合には,最低限の特定がなされており,許されると考える。

(2) 本件捜索差押許可状においては,「メモ類など」というように具体的例示が付加されている。また,捜索差押許可状において被疑事実が強盗殺人,強盗致死と特定されているであろうことにかんがみると,「本件」の内容は明確であり,それによって差押目的物の範囲は相当程度限定されている

(3) よって,本件捜索差押許可状は,差押目的物の特定がなされている。そのため,本件差押えは適法である

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