1 Xは,Yに対し,前訴において,3000万円の賠償額のうち,500万円という一部を請求する旨を明示していた。本件後訴は,その一部に対する残部に相当する2500万円部分に関する請求である。それでは,まず,Xが上記のような一部請求を行った後に,残部に関する請求を行うことができるかを検討する。一部請求後の残部請求の可否が問題となる。
(1) 私的自治の観点から,実体法上,債権の分割行使を行う自由がある。また,訴訟法上も,処分権主義(民事訴訟法246条)の観点から,訴訟法上も債権を分割行使することが認められる。それならば,反射的に,残部に関する請求も認められるべきといえる。
しかし,前訴で残部であることを明示せずに訴訟を提起して,判決まで得た原告が,前訴判決が確定した後も残部について自由に請求できるとすると,前訴が残部請求であることを信頼して応訴した被告にとって不意打ちとなる。
そこで,原告が一部請求である旨を明示している場合に限り,当該一部が独立した訴訟物となり,既判力はその一部についてのみ及び,残部請求が既判力に抵触せず,許されることとなる。
(2) 本件では,Xは前訴の請求を行う際に,一部である旨を明示した上で一部請求を行っているため,その残部に相当する2500万円部分を後訴において請求することも認められると思える。
2 そうだとしても,本件では,前訴について棄却判決がなされている。このような場合においても,同様に残部請求が認められるべきか。一部請求棄却後の残部請求の可否が問題となる。
(1) 一部請求の当否を判断する場合においても,請求内容それ自体の不存在が基礎付けられる場合でも,それ以外の部分の存在が認められ,一部認容判決が可能な場合であれば,一部認容判決を行うという運用が採られている。その性質上,債権の全部について審理判断する必要があり,当事者も全部請求の場合と同様の主張立証活動を行う。
それならば,一部請求を棄却する判決は,残部として請求できる部分がもはや存在しないという判断を示すものに他ならない。
それにもかかわらず,棄却判決が確定した後に原告が残部請求をすることは,実質的には前訴の蒸返しに当たるし,紛争解決に対する期待を抱いた被告の期待に反して,被告に二重の応訴の負担を強いるものであるため,許されるべきではない。
そこで,一部請求を棄却する判決が確定した後に残部を請求する訴えを提起することは,特段の事情がない限り,信義則に反し許されない。
(2) 本件でも,例外的に残部請求を認めるべき特段の事情が認められないため,Xの提起した後訴は信義則に反し許されない。
3 以上より,Xの提起した後訴は認めらない。
*この帰結について,「信義則による後訴遮断」という言葉が用いられています(山本和彦他『Law Practice 民事訴訟法〔第3版〕』264頁参照)。このことを踏まえた上で,後訴はいかなる帰結をたどるのでしょうか。具体的には,既判力による後訴遮断と同様に,本案における主張が制限されるという帰結を導くのか,そうではなく,信義則により,不適法となるとして,却下される(三木浩一他『Legal Quest 民事訴訟法〔第3版〕』443頁参照)という帰結を導くのか,という問題です。個人的には,前者に親和的な見解を抱いているのですが,みなさんはどちらの考え方に共感を覚えますか?
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