【事例演習 刑事訴訟法】16:訴因変更の可否

事例演習 刑事訴訟法
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1 検察官は当初Xについて、過失運転致死罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条)と道路交通法違反罪を訴因として、公訴提起した。その後、検察官は道路交通法違反罪については公訴を取り消し、過失運転致死罪については、犯人隠避罪(刑法103条)へ変更する旨の訴因変更を請求している

2 裁判所は検察官の訴因変更の請求がある場合には新旧両訴因間に「公訴事実の同一性」が認められるのであれば、それを許さなくてはならない(刑事訴訟法312条1項)。それでは、当初訴因たる過失運転致死罪と新訴因たる犯人隠避罪とは「公訴事実の同一性」が認められるか「公訴事実の同一性」の判断基準が問題となる。

(1) 1つの刑罰権の対象となる事実については、一度の刑事手続によって処罰すれば足りる。そのため、1つの刑罰権の対象となる事実について、別訴が併存し、複数の有罪判決が重複して存在する危険は、二重処罰を生じさせる危険性があるため、許されるべきではない。

そこで、「公訴事実の同一」は、新旧両訴因が一度の刑事手続でいずれかが処罰されれば足りる関係にあること、すなわち、個々の手続それぞれについて有罪判決が併存すると二重処罰の実質を生じるような関係にあることをいう。

具体的には、新旧両訴因に、①単一性と②同一性が認められる場合に「公訴事実の同一性」が認められると考える。そして、単一性は新旧両訴因において、実体法上一罪のみが成立するか否かで判断し、同一性は基本的事実関係が共通するか否かで判断する。

(2)ア 本問事案に当てはめて考えると、過失運転致死罪は被告人が本件自動車事故を引き起こした者であることを前提とする訴因設定であり、犯人隠避罪は被告人が本件自動車事故を引き起こした者を「隠避させた」者であることを前提とする訴因設定である。

それならば、新旧両訴因が両立して、それぞれについて有罪判決がなされる危険性はない。よって、新旧両訴因間で実体法上一罪しか成立し得ないため、単一性が認められる。

イ(ア) 確かに、当初訴因と新訴因においては、日時や場所について近接した記載がなされることが考えられる。

(イ) しかし、前述のとおり、過失運転致死罪の訴因は被告人を交通事故を発生させた者として構成し、犯人隠避罪の訴因は被告人を交通事故を発生させた者を「隠避させた」者として構成する点で、新旧両訴因は行為態様を著しく異にする

また、過失運転致死罪は犯罪被害者という国民個人の生命、身体の安全を保護する趣旨で構成要件が定められたものであり、犯人隠避罪は国家の刑事司法作用の適正な実現を保護する趣旨で構成要件が定められたものである。それならば、両訴因は保護法益、犯罪によって生じる侵害結果、が大きく異なる

よって、新旧両訴因間に基本的事実関係は共通していないため、新旧両訴因がともに有罪判決がなされるとしても、それは一方の明確な事実認定の誤りを原因とするものであり、二重処罰の実質は伴わず、同一性は認められない。

ウ 以上より、新旧両訴因間に「公訴事実の同一性」は認められない

3 「公訴事実の同一性」が認められない以上は、検察官は訴因変更請求をすることはできない。よって、裁判所は検察官の訴因変更請求を許可すべきではない

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