【事例演習 刑事訴訟法】19:類似事実証拠排除法則

事例演習 刑事訴訟法
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1 裁判所は被告人の自認する4件の犯罪事実(以下、「本件類似事実」という)を、他の6件の器物損壊事件(刑法261条)(以下、「本件被疑事件」という)について被告人と犯人との同一性の推認に用いようとしている。

被告人と犯人との同一性は、刑罰権の存否を画する事実(刑事訴訟法335条)といえるため、厳格な証明を行うことが必要である(刑事訴訟法317条)。それならば、本件類似事実につき、証拠能力が認められる必要があるが、それが認められるか

2 まず、本件類似事実につき、自然的関連性が認められるか

(1) 自然的関連性とは、証明事実に対して必要最小限度の証明力があることをいう。そして、被疑事実と全く異なる種類の被疑事実に関しては、証明事実に対する必要最小限度の証明力があるとはいえない。しかし、類似している犯罪を犯した事実に関しては、被告人の行動傾向、性格等が経験則上一定程度推認できるため、証明事実に対する必要最小限度の証明力があるといえ、自然的関連性が認められる

(2) 本件類似事実は、犯人性が争われている本件被疑事件と器物損壊罪に関するものである点で共通しているため、類似した犯罪を犯したものといえる。よって、自然的関連性は認められる

3 次に、本件類似事実につき、法律的関連性が認められるか類似事実に法律的関連性が認められるかが問題となる。

(1) ア 類似事実による事実認定は、類似事実から被告人の悪性格を推認し、この悪性格から被告人が同種の犯罪を行ったことを推認するものである点で、二重の推認過程を経ている。この二段階目の推認は、悪性格から犯罪の実行を推認するものであるが、信用性に大きな疑いがあり、不当な偏見をもたらすおそれが大きい。そこで、原則として、類似事実については、法律的関連性を否定すべきである。

イ もっとも、類似事実につき、偏見のおそれを上回る強い推認力が認められ、悪性格による事実の推認を介在させることなく犯罪事実の存在を合理的に推認できるような場合には、例外的に類似事実についても、法律的関連性が認められると考える。

(2)ア 本件類似事実は、駐車中のベンツの後輪タイヤを千枚通し様の刃物を刺してパンクさせ、ボンネットをナイフ様の刃物で「Z状」に傷つける、というものであった。車に千枚通し様のものを刺してパンクさせる器物損壊事件自体は少なくないと思われるが、これに加えて、「Z状」の傷をボンネットに入れることで、自己を顕示することは、類似する犯行が多々行われるような一般的な犯行態様の範囲には収まらない。そのため、一般的な車に対する器物損害事件における犯行態様としては、極めて珍しいものであり、犯行手口として顕著な特徴を有しているといえる。

イ そして、犯人性が争点となっている本件被疑事件はいずれも、タイヤを千枚通し様の刃物を刺してパンクさせ、ボンネットをナイフ様の刃物で「Z状」に傷つけるというものであり、本件類似事実と犯行手口が完全に一致している

さらに、本件類似事実と本件被疑事件はいずれも、平成26年7月下旬から8月中旬にかけての時期に、午後9時ころから午後10時ころまでの時間帯で、鎌倉市内の海岸沿いの高級マンションの駐車場に駐車中のベンツの後輪タイヤを対象とした犯罪である。すなわち、事件発生の時期、時間帯、場所、犯行の客体が一致しているため、この点でも犯行手口の一致が見られる。

この場合には、本件類似事実から被告人の悪性格の推認を経て、その悪性格から本件被疑事件の犯人であることを推認するものではない。むしろ、本件類似事実から被告人が本件被疑事件の犯人であることを直接的に合理的に推認できる場合といえる

よって、本件類似事実について法律的関連性が認められる

4 以上より、本件類似事実につき、証拠能力が認められるため、本件類似事実を本件被疑事件について被告人と犯人の同一性の推認に用いることができる

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