【事例演習 刑事訴訟法】20:自白の証拠能力①

事例演習 刑事訴訟法
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1 Xは公職選挙法違反罪の被疑事実中の現金授受の事実について自白したが、これは警察官Kが事実を認めた場合に不起訴にする旨の約束を行ったことを原因とする。そこで、「任意にされたものでない疑いのある自白」(刑事訴訟法319条1項)に当たり、証拠とすることができないのではないか不任意自白の判断基準が問題となる。

(1) 不任意自白の証拠能力が否定される根拠は、不任意自白は虚偽であるおそれが類型的に高く、誤判を招くおそれがある点、及び、不任意自白の証拠能力を否定することによって、黙秘権を中心とする人権の侵害を防止し、それによって、人権保障の実効性を担保する点にある。

そこで、不任意自白に当たるか否かは、①虚偽の自白を誘発する状況の有無②黙秘権を中心とする被告人の人権を不当に圧迫する状況の有無、によって判断すべきである2

(2)ア(ア) 自白採取者たる警察官Kの状況 3

Xは逮捕時から勾留15日目まで、一貫して現金授受の事実を否認しており、この被疑事実についての捜査は難航していたものと考えられる。そのため、警察官Kは捜査状況を進展させるため、自白採取を目的として、取調べを行っていたと推認できる。

そして、自白採取の手段として、被疑者に対して不起訴になる旨を約束する場合には、被疑者の罪に問われる不安を排除できる罪に問われるおそれが被疑事実の否認に直接的につながっていることが多いため、被疑事実について否認している被疑者に対して不起訴の約束をした場合には、被疑者に対して真実のもの、虚偽のものとを問わず、何らかの自白をさせるための心理的強制力が強く惹起される

よって、警察官Kは、Xを任意でない自白をすることが心理的に強制される状況においたものと評価できる。

(イ) 自白者たるXの状況 4

Xは、逮捕後勾留15日目まで一貫して被疑事実について否認していたにもかかわらず、警察官Kによって不起訴にする旨の約束がされた後、すぐに自白をするに至っている。このことから、その約束によって、Xが自白を行ったことは明らかである。また、このことから、Xは警察官Kが本当に検察官に話を通して不起訴にすることができる権限があるとの主観を抱いていたこと、Xにとって不起訴の措置を受けることは、被疑事実について否認することよりも優先度の高い非常に誘惑的な事項であったことが推認できる。

また、自白を行った取調べは、逮捕後勾留15日目まで継続していたと思われる。長期にわたる取調べにより、Xは否認を続けることについて精神的に限界を感じていた可能性もある。

よって、Xは任意でない自白をするおそれが類型的に高い状況にあったと評価できる。

(ウ) したがって、警察官K、取調べ段階にあったXの状況にかんがみると、虚偽の自白を誘発する状況があったといえる。

イ 不起訴にする旨の約束があったとはいえ、Xは自らの意思で自白に及んでいるため、黙秘権等の人権を不当に圧迫する状況はなかったともいえる。

しかし、前述のように、Xは自白を行うことを心理的に強制される状況にあった。自白をするについて心理的な強制を及ぼす要素があれば、被疑者が黙秘権の行使を維持することは期待できない。そのため、Xは黙秘権の行使が期待できない状況にあったといえ、人権を不当に圧迫する状況があったといえる。

ウ したがって、Xが行った自白は不任意自白に当たる

2 以上より、Xが行った自白は「任意にされたものでない疑いのある自白」に当たるため、裁判所はXの自白を証拠とすることができない

Footnotes

  1. 「本件自白調書を証拠とすることができるか」という問いかけであれば、以下のように書き始めると思われます。検察官は本件自白調書によって、現金授受の事実を立証しようとしている。現金授受の事実は、公職選挙法違反罪の刑罰権の存否を画する事実(335条1項)に当たるため、裁判所は厳格な証明(317条)に基づいて事実認定を行わなければならない。そのためには、適式な証拠調べを経た証拠能力ある証拠によることが必要である。それでは、本件自白調書について、証拠能力が認められるか。
  2. 説得的な当てはめができるように心がけましたが、かなり難度が高いように感じました。いつも適当に書いていて真剣に検討したことがなかったのが自身の中で露呈しました。
  3. 考慮要素として、①利益供与(約束)主体の権限、②供与する利益の内容、③利益供与の意図・方法、が挙げられています(古江280頁)。①について、結局のところ、警察官Kが「検察官に頼んで不起訴にすることができる」だけの権限を有していなかったとした場合でも、被疑者Xがそのことを信じていれば、虚偽の自白がなされる危険性に寄与するはずです。この意味で、被疑者の主観こそが①に関しては本質的要素と考えました。そのため、被疑者側の事情と捉える方が妥当と捉えたので、この事情は(イ)の中で検討しています。
  4. 考慮要素として、①提示された利益(約束)の受け止め方、②当時の身体的・精神的状況、が挙げられています(古江281頁)。前述のとおり、私はここの①に包含される事情に自白採取者の権限に関する事情が包含されると捉えたため、こちらに記述しています。

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