【事例演習 刑事訴訟法】25:伝聞法則③

事例演習 刑事訴訟法
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1 検察官は,本件供述調書を,XのVに対する殺人被疑事実の行われた状況を立証する趣旨で用いようとしている。犯行の状況に関する証拠は,構成要件該当性を推認させる事実であり,刑罰権の存否を画する事実(刑事訴訟法335条1項)といえるため,厳格な証明(刑事訴訟法317条)を経る必要がある。本件供述証拠を用いるためには,適式な証拠調べを経た上で,証拠能力を備えている必要がある。

2 本件供述証拠が伝聞証拠(刑事訴訟法320条1項)に当たり,法律的関連性が否定されるのではないかを検討する。伝聞証拠の意義が問題となる。

(1) 供述証拠は,知覚,記憶,表現,叙述という過程を経て証拠化されるものであり,この各過程には誤りが介在する危険性がある。供述の正確性を担保するため,反対尋問等の方法による確認が必要とされる。しかし,公判廷外でなされた供述証拠については,反対尋問等の方法による正確性の確認を行うことができず,上記危険性を排除できないため,証拠能力が原則として否定されるものである。

そこで,伝聞証拠とは,①公判廷外においてなされた原供述を内容とし,②その内容の真実性を証明するために用いられるものをいう。

(2)ア 本件供述調書は,検察官が甲を取り調べた際に作成されたものであり,公判廷外における供述を内容としている

イ 本件供述調書は,被告人Xの犯行状況を示す供述を録取したものであり,その内容の真実であるか否かが問題となる

(3) よって,本件供述証拠は,伝聞証拠に当たるため,原則として法律的関連性が否定される

3 本件では,被告人Xが同意(刑事訴訟法326条)しない旨の意思表示をしているため,伝聞例外規定(刑事訴訟法321条〜324条)の要件をみたす場合にのみ,例外的に法律的関連性が認められる。本件供述調書は,「検察官の面前における供述を録取した書面」であるため,刑事訴訟法321条1項2号の要件該当性を検討する

(1) 甲はオーバーステイを理由として,退去強制令書の執行により,乙国に退去させられている。この場合,5年間は再度日本に入国することはできない(出入国管理及び難民認定法5条1項9号ロ)。そのため,甲が公判廷において供述することは不可能であり,「国外にいるため……供述することができないとき」に当たる

(2) 検察官は,公益の代表者とはいえ,裁判官のような公平な第三者としての立場にはないため,絶対的特信情況が必要と考える。この点については,設問文中からは明らかではない。

(3) よって,絶対的特信情況が認められる場合には,本件供述証拠の法律的関連性が認められる

4(1) その場合には,本件供述証拠の証拠能力が認められ,実体的真実発見,事案の解明に資する。しかし,検察官面前調書の採用を安易に許容すると,被告人の証人審問権(憲法37条2項)行使の機会が奪われるという不利益や,検察官が供述不能の要件を充足させることを目的として退去強制を利用するおそれが生じる。

そこで,証人が供述できない状況にあっても,その状況に至った事情が手続的正義の観点から公正さを欠く場合には,証拠能力を否定すべきである。

(2) 甲はオーバーステイを理由として入管施設に収容され,退去強制令書の執行により,出国している。この措置が,甲の証人尋問実施が決まった第1審公判期日後間もなく行われたことにかんがみると,検察官がこの事情を利用して供述不能要件を充足させようと画策する時間的猶予はなかったと考えられる。

また,裁判所,検察官が入管当局に証人尋問を行う旨を伝えた上で,退去強制執行の時期を調整するなどの方法も考えられるものの,本件では,証人尋問決定後猶予なく執行がなされており,そのような調整を行うことは困難であったといえるし,また,甲は自身で旅券等を準備し,出国しているため,甲に対する身体拘束期間をできるだけ短くするため,入管当局が甲の意思に基づく出国を許可するのは当然といえる。

以上の事情にかんがみると,他に特段の事情がない限りは,甲が出国に至った事情に手続的正義の観点から公正さを欠くとはいえない。よって,本件供述証拠の証拠能力は否定されない

5 以上より,裁判所は,本件供述証拠の絶対的特信情況が認められ,手続的正義の観点から公正さを欠くと評価すべき特段の事情がない場合には,本件供述調書を証拠として採用することができる

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