【事例演習 刑事訴訟法】26:伝聞法則④

事例演習 刑事訴訟法
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第1 設問(1)について

1 検察官は,犯人性を基礎付ける証拠として,乙の手帳を証拠調べ請求している。犯人性は刑罰権の存否を画する事実(刑事訴訟法335条1項)であるため,厳格な証明(刑事訴訟法317条)が要求される。したがって,乙の手帳を証拠として採用するためには,証拠能力が認められる必要がある。

2 乙の手帳は,乙の供述を録取したものであるため,伝聞証拠(刑事訴訟法320条1項)に当たり,証拠能力が否定されるのではないか伝聞証拠の意義が問題となる。

(1) 供述証拠は,知覚,記憶,表現,叙述という過程を経る。そして,この各過程には,誤りが介在する危険性があるため,その危険を排除すべく反対尋問等の方法により各過程の正確性を確認する必要がある。しかし,公判廷外でなされた供述は,反対尋問等の方法による正確性の確認が行えないことから,証拠能力が否定される

このような伝聞証拠の証拠能力が否定される趣旨にかんがみ,伝聞証拠とは,①公判廷外でなされた原供述を内容とするものであり,②原供述の内容の真実性を証明するために用いられるものをいう

(2)ア 乙の手帳に録取された乙の供述は,公判廷外でなされたものであることは明らかである。

イ 検察官は,被告人Xの犯行に関する乙と甲との会話の内容とその存在を立証趣旨として,乙の手帳の取調べ請求をしているが,会話の存在が証明されたところで,Xの犯人性の証明に寄与しない。ここでは,乙の供述の内容の真実であることが証拠としての価値を有する前提となるため,内容の真実性を証明するために用いられるといえる

ウ よって,乙の手帳は,伝聞証拠に当たる。したがって,乙の手帳の証拠能力は原則として否定される

(3) Xの弁護人は,乙の手帳の採用に関して同意しない旨の意見を述べた(刑事訴訟法326条1項)ため,伝聞例外規定(刑事訴訟法321条〜324条)の要件をみたす場合にのみ,例外的に証拠能力が肯定される

3 乙の手帳には,乙が自身と甲との間で交わした会話について記述したという過程(「第2伝聞過程」という)と,甲が乙に対して供述したという過程(「第1伝聞過程」という)とを含んでいる。すなわち,伝聞過程が複数存在している。このような再伝聞証拠に証拠能力は認められるか

(1) 確かに,伝聞過程が複数存在している場合には,誤りが介在する危険性が大きくなるため,証拠能力を否定すべきとも思える。

しかし,各伝聞過程について,伝聞例外の要件がみたされるのであれば,供述過程の正確性は各過程において認められるので,誤謬介在の危険性は克服されているといえる。また,再伝聞証拠の証拠能力を否定すべき明文上の要請も存在しない。

そこで,再伝聞証拠においても,各伝聞過程について伝聞例外の要件がみたされる限りは,証拠能力が認められると考える。

(2) 乙の手帳についても,第1伝聞過程,第2伝聞過程について,伝聞例外の要件がみたされるのであれば,証拠能力が認められる

4 第2伝聞過程について

(1) 乙は自らの供述を手帳に録取した。刑事訴訟法321条1項3号の要件がみたされるかを検討する。

ア 乙は交通事故によって死亡しているため,「供述者が死亡」したため公判廷において「供述することができない」といえる。

イ 乙の供述が「犯罪事実の存否の証明に欠くことができない」ものであり,かつ,絶対的特信情況が認められる必要があるところ,設問の文中からは明らかではない。仮に,乙手帳以外の証拠だけでは,犯人性を示すことができない場合には,不可欠性の要件はみたされる。

(2) よって,上記要件をみたす場合には,第2伝聞過程についての伝聞性は排除できる

5 第1伝聞過程について

(1) 前記要件をみたした場合には,第2伝聞過程についての伝聞性は排除できるため,乙の供述自体は「公判期日における供述」(刑事訴訟法324条2項)と同視することができる。そこで,刑事訴訟法324条2項を類推適用し,乙が甲の供述を聞き,それを手帳に記載したことについて,刑事訴訟法321条1項3号の要件がみたされるかを検討する。

ア 甲は行方不明となっているため,「所在不明」であり,公判廷における供述ができない

イ 甲の供述が「犯罪事実の存否の証明に欠くことができない」ものであり,かつ,絶対的特信情況が認められる必要があるところ,設問の文中からは明らかではない。

(2) よって,上記要件をみたす場合には,第1伝聞過程についての伝聞性は排除できる

6 以上より,上記要件をすべてみたす場合にのみ,裁判所は乙の手帳を証拠として採用することができる

第2 設問(2)について

1 本件検察官面前調書は,Xの供述を甲が聞き(「第1伝聞過程」という),それを甲が検察官に話し(「第2伝聞過程」という),検察官が書面に録取したものである。この各過程につき,伝聞例外規定の要件がみたされれば,本件検察官面前調書の証拠能力が認められる。

2 第2伝聞過程について

(1) 「検察官の面前」での甲の供述を内容とするため,刑事訴訟法321条1項2号の要件該当性を検討する

ア 甲は行方不明となっているため,「所在不明」であり,公判廷における供述ができない

イ 検察官は公益の代表者としての立場にはあるものの,裁判官のような公平な立場にはないため,絶対的特信情況を要求すべきである。この点に関しては,設問文中の事情からは判断できない。

(2) よって,絶対的特信情況が認められる場合にのみ,刑事訴訟法321条1項2号の要件をみたし,第2伝聞過程の伝聞性は排除される

3 第1伝聞過程について

(1) 上記場合には,第2伝聞過程の伝聞性が排除されるため,「公判期日における供述」と同視することができる。そして,甲の供述は,「被告人の供述をその内容とする」証拠である。そこで,刑事訴訟法324条1項を類推適用し,刑事訴訟法322条1項の要件がみたされるかを検討する。

(2) 甲は,XがVを殺害した旨を甲に話したことを供述している。Xが甲に対して話した内容は,XのVに対する殺人被疑事実を認めることを意味しており,「被告人に不利益な事実の承認を内容とするもの」に当たる。よって,「任意にされたものでない疑がある」とする事情がなければ,刑事訴訟法322条1項の要件がみたされ,第1伝聞過程の伝聞性は排除される

4 したがって,上記各要件をみたす場合には,裁判所は,本件検察官面前調書を証拠として採用することができる

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