【事例演習 刑事訴訟法】28:違法収集証拠排除法則①

事例演習 刑事訴訟法
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1 警察官Kが,Zの自宅について,捜索・差押えを行う前に捜索差押許可状を呈示しなかったことは,刑事訴訟法220条1項,110条に反し,違法ではないか

(1) 刑事訴訟法220条1項, 110条の趣旨は,手続の公正を担保することと,被処分者の人権に配慮することにある。その趣旨に照らし,令状の呈示は処分の前に行われるべきである。ただし,捜索差押えの実効性を確保するための緊急の必要性が存する場合には,例外的に事後の呈示でも許されると考えられる。

(2) 本件において,令状の呈示は捜索差押えの前にはなされず,それが行われた次の日になされている。そして,警察官Kが捜索差押えに及んだ段階で既に捜索差押許可状が発付されており,その発付を待ってから処分を行うのでは証拠が隠滅されるような客観的な危険性は認められないため,事後の呈示は許されない

(3) よって,上記行為は刑事訴訟法220条1項,110条に反し,違法である

2 警察官Kが上記手続によって差し押さえた土地売買契約書等の関係書類は,違法に収集された証拠であるため,証拠とすることができないのではないか違法に収集された証拠の証拠能力が問題となる。

(1) 適正手続の保障(憲法31条),司法の廉潔性確保,将来の違法捜査抑止の観点から,違法な手続によって収集された証拠の証拠能力は否定すべきである。もっとも,軽微な違法があるにすぎない場合にも証拠能力を常に否定することは,実体的真実発見の観点からは妥当とは言い難い。

そこで,①令状主義の精神を没却するような重大な違法があり,②将来の違法捜査抑止の観点から証拠として排除することが相当といえる場合にのみ,違法に収集された証拠は証拠能力が否定されると考える。

(2)ア(ア) 警察官Kは,捜索差押許可状が発付されており,本件捜索差押えは令状記載の範囲内であったため,捜索差押えを行う権限は得ていたといえる。また,警察官Kは令状発付について認識しており,令状の発付なしに本件処分に及んだわけではなく,また,令状の到着を待っていたという事情もあるため,令状主義の観点を完全に無視しているわけではない。

よって,違法性の程度が重大とまではいえないとも思える。

(イ) i 本件処分の態様

令状が発付されていたとはいえ,令状を呈示せずに執行に及ぶことは,刑事訴訟法220条1項,110条の令状主義の趣旨に真っ向から反する。令状主義が手続の公正や被疑者の人権への配慮という重大な理念を根拠としている以上,それを没却することの違法性の程度が軽度であるとはいえない

ii 警察官Kの令状主義軽視の態度

確かに,本件捜索差押えは令状記載の範囲内で行われた。しかし,警察官KはLにその範囲について確認していないため,その範囲内にあったことは偶然といえ,完全に令状よりも自身の主観を優先して判断に至っている。ここから,令状主義を軽視する態度がうかがえる。

さらに,警察官Kが自身の判断で,後日令状を示せば足りると考えたことは,令状主義への軽視の態度に他ならない。また,警察官Kは,捜索差押えを行った翌日に,捜査報告書を作成しているが,捜索差押えを行う前に令状呈示を行ったという旨の虚偽の記載をしている。このことは,処分当時の警察官Kの令状主義への没却へ向けた意思を強く推認させる

(ウ) よって,令状主義の精神を没却するような重大な違法があるといえる。

イ 本件において,証拠としての採用を認めた場合には,令状発付さえ行われていれば,処分前に令状を呈示しなかったとしても,証拠能力が認められることとなる。その場合には,将来に刑事訴訟法220条1項,110条の趣旨に反するような捜査手続がなされることを抑止することができないため,妥当ではない。

よって,将来の違法捜査抑止の観点から証拠として排除することが相当といえる。

(3) したがって,本件証拠は,違法に収集された証拠として証拠能力が否定される

3 以上より,本件証拠は,Xの公判において,証拠とすることができない

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