【事例演習 刑事訴訟法】29:違法収集証拠排除法則②

事例演習 刑事訴訟法
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1 検察官Pが被疑者Xの捜査について,Z国に対して捜査共助要請をしたところ,Z国の捜査機関は,Yの自宅を無令状で捜索して,証拠物が押収した。無令状捜索・差押えは,日本の刑事訴訟法においては,刑事訴訟法222条1項,110条に反し,違法であるため,Z国の手続も違法といえないか外国で適法に捜査手続が行われたが,その捜査手続が日本においては違法である場合に,違法性が認められるかが問題となる。

(1) 外国において,適法である捜査手続であったとしても,日本の法制度のもとで刑事手続を行う以上は,違法性の有無は,当該外国の法制度を基準とするのではなく,日本の法制度を基準として判断すべきである。よって,外国で適法に捜査手続が行われたが,その捜査手続が日本においては違法である場合には,違法性が認められる

(2) Z国において行われた無令状捜索・差押えは,上記のとおり日本の刑事訴訟法を基準として判断すると,刑事訴訟法222条1項, 110条に反する。そのため,違法性が認められる

2 それでは,Z国における違法な捜査手続によって取得された本件証拠物は,証拠能力が否定されないか違法収集証拠の証拠能力が問題となる。

(1) 適正手続の保障(憲法31条),司法の廉潔性の確保,将来の違法捜査抑止の観点から,違法な手続によって収集された証拠は排除すべきである。しかし,軽微な違法があるに過ぎない証拠を排除することは,真実発見に反するため,①重大な違法があり,かつ,②将来の違法捜査抑止の観点から見た排除相当性がある場合にのみ,証拠能力が否定される

(2)ア 本件証拠の収集において,違法な捜査手続が介在しているとはいえ,Z国の捜査機関によってなされた違法であるため,日本の司法手続において直接的になされた違法ではない。よって,違法性が重大であるとはいいがたい

イ 本件捜査手続は,Z国の捜査機関においてなされた違法な手続であり,日本国内における刑事手続とは直接の関連性を有しないし,Z国内では適法な手続である以上,この証拠物の証拠能力を排除したところで,将来の違法抑止には効果的ではない

ウ したがって,本件証拠物は,違法収集証拠として証拠能力が否定されることにはならない

3 違法収集証拠排除法則によって,本件証拠物の証拠能力が否定されないとしても,適正手続の保障や,司法の廉潔性確保という優越的利益を保護するため,本件証拠物の証拠能力を否定すべきではないか

(1) 適正手続の保障の観点から

ア 適正手続の保障は,憲法31条を保障根拠とする人権の保障に他ならないため,それが侵害されているか否かは,違法な捜査によって権利の侵害を受けた者との関係で問題となる

そして,適正とはいいがたい手続が介在するものの,被告人との関係で直接の問題とならない場合には,ただちに適正手続の保障が害されたとはいえず,瑕疵の介入した手続と,被告人に直接関係する刑事手続とが一体となっている場合にのみ適正手続の保障が侵害されたものと捉えることができる。そこで,そのような場合に適正手続の保障が及んでいるかは,刑事手続における手続相互の関連性の強さに着目して判断するべきである。

イ 本件では,日本の刑事訴訟法を基準とした上で法益の侵害を観念できるのはYであり,適正手続の保障の観点から侵害を受けたのは,本件刑事手続の被告人Xではない。よって,被告人との関係で直接的に適正手続の保障が害されたとはいえない。

本件証拠収集手続はZ国で行われており,日本の刑事司法機関がZ国の証拠収集手続に関与した部分は,捜査共助の要請をした部分と,収集された証拠を受け取った部分のみである。それだけでは,Z国の手続と日本の刑事司法機関の手続との関連性は微弱であり,Z国における捜査手続の瑕疵が日本の手続の瑕疵に直接的に結びつくとは考えがたい

よって,適正手続の保障の観点から,証拠能力は否定されない

(2) 司法の廉潔性の観点から

ア 外国でなされた刑事手続において違法性が存在する場合に,それを日本の刑事手続でそのまま用いることは,国民の司法に対する信頼や尊敬を失わせるおそれがある。よって,司法の廉潔性の観点から証拠排除が認められうる。

しかし,外国の刑事手続を前提とする以上,相対的に信頼や尊敬を害する程度は低い。そこで,個人の尊厳を害したり,憲法や刑事訴訟法の根本理念に反する場合にのみ,証拠能力を否定すべきである。

イ 本件でも,Z国でなされた無令状捜索・差押えに基づいて収集された本件証拠物を採用することは,司法の廉潔性の観点から妥当ではない。しかし,本件無令状捜索・差押えは,XやYとの関係では,人権侵害となったわけではない。すなわち,個人の尊厳を害したり,憲法や刑事訴訟法の根本理念に反するといえる事情は特に存在しないため,証拠能力は否定されない

4 以上より,本件証拠物をXの公判で証拠として用いることができる

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