【事例演習 刑事訴訟法】30:違法収集証拠排除法則③

事例演習 刑事訴訟法
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1 警察官Kは,Xを無理やりパトカーに押し込み,警察署へ同行させている。この行為は,任意出頭(刑事訴訟法198条1項本文)とはいえず,実質的逮捕に当たり,令状発付(刑事訴訟法199条)が行われていないため,違法ではないか任意同行と実質的逮捕との区別が問題となる。

(1) 任意同行か実質的逮捕かの区別は,「強制の処分」(刑事訴訟法197条)といえるかという点に求められ,相手方が同行を断る自由が制圧される状況にあったか否かによって判断すべきである。

具体的には,①同行を求めた時間・場所,②同行の方法・態様,③同行後の取調べ状況,④被疑者の態度, などの諸般の事情を総合的に考慮して判断すべきである。

(2) Xは,パトカーに乗ることを嫌がっていたにもかかわらず,警察官KがXをパトカーに無理やり乗せて連行した点にかんがみると,Xが同行を断る自由を無視して連行されたものといえ,その自由が制圧される状況にあったといえる。

(3) よって,本件同行手続は実質的逮捕に当たる。逮捕状が発付されたと判断すべき事情はないため,本件同行手続は刑事訴訟法199条に反し,違法である

2 その後に行われた尿の採取手続自体は,Xの任意によってなされているため,適法な手続といえる。しかし,本件同行手続の違法性が,尿の採取手続に波及するのではないかいかなる場合に先行手続の違法性が後行手続に承継されるかが問題となる。

(1) 先行行為と後行行為との間に密接な関連性がある場合には,後行行為にも先行行為の違法性が波及すると捉えるべきである。そして,密接関連性の判断は,①両行為が同一目的によるものといえるか,②後行行為が先行行為を直接利用したものといえるか,という点によって行うべきである。

(2)ア 先行行為は,Xの覚せい剤使用の疑いがあったため,それを警察署で確認するために行われたものであり,後行行為が覚せい剤使用の有無を直接確認するために行われた手続であることにかんがみると,両行為は同一の目的のもとで行われている。

イ 後行行為である尿の採取手続は,先行行為である同行手続を前提として行われており直接的な利用関係が認められる。

ウ よって,本件同行手続と尿の採取手続との間には密接関連性があるといえる

(3) したがって,本件同行手続の違法性が尿の採取手続に波及する

3 それならば,本件尿の鑑定書は,違法な手続によって収集された証拠といえるため,証拠能力が否定されないか違法に収集された証拠の証拠能力が問題となる。

(1) 適正手続の保障(憲法31条),司法の廉潔性確保,将来の違法捜査抑止の観点から,違法に収集された証拠の証拠能力は否定すべきである。もっとも,軽微な違法があるに過ぎない場合に常に証拠排除することは真実発見(刑事訴訟法1条)の観点から妥当とは言い難い。そこで,①令状主義の精神を没却するような重大な違法があり,②将来の違法捜査抑止の観点から証拠として採用することを許容することが相当ではない場合に限り,証拠能力が否定されると考える。

(2)ア 本件尿の採取手続はXの意思に基づいて行われているものの,その手続と強力な因果性を有する本件同行手続が実質的逮捕に該当する事情を重視すべきである。実質的逮捕に当たる本件同行手続は,本来であれば逮捕状が必要な性質の処分であったにもかかわらず,それがなされていない点は,令状主義を潜脱するものであり,違法性の程度は重大といわざるを得ない。

イ 実質的逮捕に基づく任意の後行手続の証拠採用を許容した場合には,特に覚せい剤事犯など,任意でなければ証拠採取が困難な犯罪において,同様の方法により,疑わしいものを検挙できることを意味する。その場合には,同種の違法が繰り返されることが予想されるが,このような違法行為が行われる可能性は排除すべきである。よって,将来の違法捜査抑止の観点から証拠採用を許容することが相当でないといえる。

(3) したがって,本件尿の鑑定書の証拠能力は否定される

4 以上より,裁判所は本件尿の鑑定書をXの公判で証拠として用いることができない

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