【Law Practice 民事訴訟法】基本問題36:反射効

Law Practice 民事訴訟法
この記事は約5分で読めます。

【反射効否定説を採用,かつ,明文なき既判力の拡張を否定する見解】

1 XY間において,「主文に包含するもの」として,XのYに対する貸金返還請求権の不存在について既判力が生じている(民事訴訟法114条1項)。本件請求権の担保としてXZ間に連帯保証契約が締結され,XはZに対して保証債務履行請求を行っている。このXZ間の訴訟に対して,XY間の訴訟の既判力が及ぶか

(1) 既判力の正当化根拠は,手続保障に基づき自己責任を課す前提が満たされることにある。そこで,原則としては,実際に訴訟上の手続に参加した当事者にのみ,既判力が及ぶ。そして,例外的に既判力を拡張すべきとして,民事訴訟法115条1項2〜4号に規定された第三者に関しても,既判力が及ぶ

(2) ZはXY間の訴訟の当事者ではなく,また,民事訴訟法115条2〜4号所定の第三者には当たらないため,XZ間の訴訟に対して,民事訴訟法の明文による既判力は及ばない

2 しかし,実体法上は,主債務の不存在が確定しているため,本件連帯保証債務も付従性により消滅する(民法446条1項)。それならば,その実体法上の効力が,訴訟法上もXのZに対する保証債務履行請求権の存在に対して作用するのではないか

(1) 反射効とは,当事者間に既判力を生じた判断が,当事者の一方と実体法上の特殊な関係にある第三者に対して反射的に有利,又は,不利な影響を及ぼす効力をいう。そして,反射効を認める場合には,第三者に対する裁判において裁判所は前訴確定判決の判断に拘束されるため,その実質は,既判力を拡張するものと異ならない

明文に規定のない反射効を認めること,及び,既判力を明文の規定なく拡張することは,特別の規定のない限り,既判力は当事者間にのみ及ぶとする相対的効力の原則(民事訴訟法115条1項1号)に反するし,不利益に拡張される場合には,第三者の手続保障を害し,既判力の正当化根拠を欠く

さらに,これを肯定することは,前訴敗訴者に対して一方的に不利益を加重するものに他ならず,当事者間の公平の観点から妥当でない

そこで,反射効及び明文なき既判力の拡張は認めるべきではない

(2) 以上より,本件において,前訴確定判決の効力は,後訴に対していかなる作用をも及ぼさない


【明文なき既判力の拡張を認める見解】

1 XY間において,「主文に包含するもの」として,XのYに対する貸金返還請求権の不存在について既判力が生じている(民事訴訟法114条1項)。本件請求権の担保としてXZ間に連帯保証契約が締結され,XはZに対して保証債務履行請求を行っている。このXZ間の訴訟に対して,XY間の訴訟の既判力が及ぶか

(1) 既判力の正当化根拠は,手続保障に基づき自己責任を課す前提が満たされることにある。そこで,原則としては,実際に訴訟上の手続に参加した当事者にのみ,既判力が及ぶ。そして,例外的に既判力を拡張すべきとして,民事訴訟法115条1項2〜4号に規定された第三者に関しても,既判力が及ぶ

(2) ZはXY間の訴訟の当事者ではなく,また,民事訴訟法115条2〜4号所定の第三者には当たらないため,XZ間の訴訟に対して,民事訴訟法の明文による既判力は及ばない

2 しかし,実体法上は,主債務の不存在が確定しているため,本件連帯保証債務も付従性により消滅する(民法446条1項)。それならば,その実体法上の効力が,訴訟法上もXのZに対する保証債務履行請求権の存在に対して作用するのではないか

(1) 既判力の趣旨は,紛争の蒸し返しを防止して,紛争解決の実効性を確保する点にあり,その正当化根拠は,前述したとおり,手続保障充足に基づく自己責任にある。

それならば,既判力が及ぶ旨の明文がなかったとしても,①既判力を拡張すべき合理的必要性があり,②既判力が拡張される者の手続保障が十分に及んでいる場合には,既判力を拡張することができると考える。

なお,当事者間に既判力を生じた判断が,当事者の一方と実体法上の特殊な関係にある第三者に対して反射的に有利,又は,不利な影響を及ぼす効力,すなわち,反射効という概念を提唱する見解もあるが,明文で存在している既判力の問題として処理できる以上,あえて明文に現れない不確定な概念を持ち出す必要はない

(2) それでは,本件は,XY間の前訴確定判決の既判力をXZ間の訴訟へ拡張することができる場合に当たるか

ア XY間の訴訟において,既判力をもってXのYに対する貸金返還請求権の不存在が確定されているため,XのZに対する保証債務履行請求権は実体法上不存在となることは明らかである。それならば,別途XのZに対する上記請求権に関する主張を認める必要性に乏しいし,矛盾判決が下される危険すらある。よって,XY間の確定判決の既判力をXZ間の訴訟に拡張すべき合理的必要性がある

イ(ア) XはXY間の訴訟において,XのYに対する貸金返還請求権の存在を主張立証する機会が十分に保障されていた。そして,XZ間の訴訟においては,XのYに対する貸金返還請求権の存在を保証債務履行請求権の発生原因事実として主張立証しなくてはならず,その点に関しては既に前訴で手続保障が及んでいるのであるから,再度争う機会を与える必要はない

(イ) 本件は,Zの利益となる形で既判力が拡張されるため,手続保障が及んでいなかったとしても,既判力の拡張によって不利益を被らない以上,Zに対して既判力の拡張を認めることが許容される。また,XY間の訴訟において,Zを代替する主体としてYが真摯に訴訟追行を行い,その結果Yの勝訴に至ったと思われるため,代替的な形ではあるが実質的にZの手続保障も充足されているといえる。

ウ したがって,本件は,XY間の前訴確定判決の既判力をXZ間の訴訟へ拡張することができる場合に当たる

3 以上より,前訴確定判決の効力は,後訴においてXに対して,XのYに対する貸金返還請求権を存在する旨の主張を遮断する基準としての作用を及ぼす

コメント