【事例演習 刑事訴訟法】5:身柄拘束の諸問題(2)

事例演習 刑事訴訟法
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第1 設問前段について

1 Xは,A事実に基づいて常習傷害罪によって逮捕・勾留され,保釈された。その後,XはA事実と包括一罪の関係にあるB事実を犯した。A事実に関する保釈中は勾留の効果が継続しているため,B事実に関する逮捕・勾留は一罪一逮捕一勾留の原則に反するのではないか

(1) 一罪一逮捕一勾留の原則とは,一罪について複数の逮捕・勾留を行うことは許されないとする原則である。そして,この原則の実質的な根拠は,逮捕や勾留の蒸返しや身柄拘束の不当な長期化を防止し,被疑者の人権に配慮することにある。そして,その手段として,一回の身柄拘束の中で,一罪関係にある被疑事実の全部について同時に処理することが,捜査機関に求められる

それならば,先行する身柄拘束当時に同時捜査が可能であった範囲内での再度の逮捕・勾留は認めるべきではない。他方で,同時捜査が不可能であった場合には,上記根拠が及ばないため,両者の被疑事実は別個に扱われ,新たな事実による身柄拘束も認められるべきである。

(2)ア 蒸返しや,身柄拘束の不当な長期化を防ぐためには,実体法上の一罪関係にある複数の犯罪事実を分割して,それぞれについて同時に逮捕・勾留することを禁止する必要があるため,「一罪」とは,実体法上の一罪関係にあることをいう。

本件では,A事実とB事実とは,包括一罪の関係にあると認められているため,実体法上の一罪関係にある。

イ そして,B事実が発生したのは,先行する逮捕・勾留の原因となったA事実における逮捕の前である。確かに,A事実における逮捕より前に発覚していなかった以上,捜査機関が同時処理することが不可能だったともいえる。

(3) しかし,逮捕・勾留以前に未発覚であったことを同時捜査が不可能であった理由として認める場合には,捜査機関の懈怠や,捜査能力の欠如を原因として被疑者に不利益を負わせることになりかねないため,妥当ではない。よって,このような場合には,同時処理は可能であったと捉えるべきである。

本件でも,先行する身柄拘束当時に発覚はしていたため,同時捜査が可能であったと捉えることができる

(4) したがって,B事実に関する逮捕・勾留は一罪一逮捕一勾留の原則に反する

2 以上より,捜査機関はB事実によりXを逮捕・勾留することはできない

第2 設問後段について

1 XがC事実を犯したのは,A事実に関する保釈中であり,A事実に関する逮捕の後である。そのため,前述の基準に照らすと,C事実に関する身柄拘束をA事実に関する逮捕・勾留と同時に処理することは不可能であったため,C事実に関する逮捕・勾留は一罪一逮捕一勾留の原則には反しない

2 以上より,捜査機関はC事実によりXを逮捕・勾留することができる

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