【事例演習 刑事訴訟法】6:身柄拘束の諸問題(3)

事例演習 刑事訴訟法
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第1 設問(1)について

1 司法警察員Kは,主に殺人罪について取り調べる目的で,窃盗罪の逮捕状を請求した。その後KはXを逮捕・勾留した。本件逮捕・勾留は,逮捕状で理由とした被疑事実とは異なる被疑事実の捜査を目的としたものであるため,違法ではないか

(1)ア 本件を取り調べる目的で行う別件逮捕は,本件について司法審査を得ていないにもかかわらず,本件について身体拘束を伴って取調べを行うものである。それならば,実質的に令状主義(憲法33条,刑事訴訟法199条1項)に反するし,また,厳格な身体拘束期間(刑事訴訟法203条以下)を定めた法の趣旨にも反する

また,逮捕を自白獲得の手段と見る点で,黙秘権侵害や自白強要の蓋然性が高いため,この意味でも憲法や刑事訴訟法の精神に反する

そこで,本件取調べ目的での別件逮捕は違法と考える。

イ もっとも,本件取調べ目的で逮捕・勾留がなされたか否かという問題は,捜査機関の主観の問題であり,その主観の判断は,客観的な資料から判断せざるを得ない

よって,捜査機関が本件取調べ目的の主観を有していたか否かは,①本件についての捜査状況,②別件逮捕の必要性の程度,③本件と別件との関連性の程度,④逮捕後の取調べ状況,などの事情から,判断すべきである

(2) 本件では,Xに関して殺人罪を理由として逮捕するに際しては十分な証拠が収集できていなかったため,殺人罪の捜査を目的として,窃盗罪の取調べが行われる蓋然性は高い

しかし,Kは逮捕段階では,もっぱら窃盗事件についての捜査を行い,勾留中に関しても,もっぱら窃盗事件についてのみ取調べや捜査を行っている以上,殺人事件の取調べとして窃盗罪の身柄拘束が利用されたという事情は何ら存せず逮捕・勾留はもっぱら別件取調べ目的でなされたものといえる

2 以上より,本件逮捕・勾留は,逮捕状で理由とした被疑事実とは異なる被疑事実の捜査を目的としたものではないため,適法である

第2 設問(2)について

1 本件においても,窃盗罪での逮捕・勾留が殺人罪の取調べを目的としてなされたものであるかを,上記基準に従って検討する。

(1) 本件では,Xに関して殺人罪を理由として逮捕するに際しては十分な証拠が収集できていなかったため,殺人罪の捜査を目的として,窃盗罪の取調べが行われる蓋然性は高い

そして,Kは勾留状発付後からは,主として殺人事件について取り調べている。窃盗事件に関する取調べが副次的なものとされたことにかんがみると,殺人事件の取調べを目的として,勾留がなされていたと捉えるほかはない

(2) よって,窃盗罪での逮捕・勾留が殺人罪の取調べを目的としてなされたものであるといえる

2 以上より,本件逮捕・勾留は,逮捕状で理由とした被疑事実とは異なる被疑事実の捜査を目的としたものであるため,違法である。

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